白と黒

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 地面に膝をついたまま、白の王がまるで祈りを捧げるように、両手を胸の前で組む。 「……光は朝を照らし 闇は夜を覆う 輪廻を巡る命の輝きは(そら)へ 落ち行く命の受け皿は奈落へ」  それは歴史にすら残らない、いつの時代もただ二人のみが識ることを赦された音の羅列だ。 「白と黒の狭間を我が手に 光と闇の切れ間をここに 祝福と怨嗟の境界を足元に」  白の王の影から、無機物とも動物とも知れぬ存在が姿を現す。喜怒哀楽を象る四の顔を持ったそれは、白の国の王獣だ。黒の王獣に並ぶ不自然さを持ち合わせた、生を司る獣である。 「私は祈りを以て願いを叶えるもの 私は呪いを以て望みを満たすもの ならばこの手は理を握り この足は理を踏み越える」  白の王を中心に、彼女が膝をつく大地から白い光が溢れ出す。そして、渦のように柔らかく舞う光たちに包まれた彼女の両肩に、白の王獣が両の手を置いた。 「祈り 願い 呪い 嘆き 奇跡を満たす強き陽射しよ 奇跡を運ぶ柔らかな月光よ すべての命を御するただ一人の名において 彼の者の歩むその先を遮らせたまえ」  詠唱を重ねるごとに、王獣の身体が溶けるようにして(ほど)けていく。そして、(ほど)けた粒子たちは、まるで王と一体化するように、王の身体に吸い込まれていった。 「……主よ、どうかこの大罪をお赦しください」  そう頭を垂れたのは、果たして王だったのか王獣だったのか。  詠唱を終えた彼女が、顔を空へと持ち上げ、その目を開く。 「――“私はその未来を否定する(レ・シェルファス)”」
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