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少しずつ変化する気温から判断するに、恐らく昼を随分過ぎた頃、さすがに朦朧とし始めた意識の端に、聞き覚えのある声が飛び込んできた。
「はーい、ご苦労様ー」
ぱんぱんと手を打って近づいてきた声に、少年の背筋が凍る。同時に、ストールの中の温もりがびくりと小さく震えたのを感じた。
「あららー、後遺症とか残らない程度に適度にゆるーく痛めつけておいてって言ったけど、それにしても随分温い拷問だったんだねー。勢い余って足の一本くらい潰しても良かったのにー」
まあそんなことしたら僕が君たちのこと殺してたけど、と、朗らかな声が兵士たちに語り掛ける。
昨日今日で、嫌と言うほど聞かされてきた声だ。だからこそ、地面に伏した顔を上げてはいけないと、本能が叫ぶ。どうせそこに誰がいるかは判っているのだから、わざわざその絶望を目にする必要はないではないか。だというのに、か弱い少年の心は目を背け続けることを許さず、結局彼は、その顔を声の方へと向けてしまった。
「……ぁ、」
小さな声が、青褪めた唇から漏れる。それはまったく悲鳴ではないのに、どんな叫びよりも悲痛な響きを持って零れ落ちた。
「こんにちは、エインストラ。喜ぶと良いよ、ここからは僕が君の相手だ」
少年の視線の先、心底から楽しそうな声でそう言ったのは、仮面の男だった。
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