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「ああ、そこまで警戒しないでよ。ちゃんと段階は踏むから。ほら、物事にはタイミングってものがあるでしょ? どうせなら、役者には最高の舞台で最高に輝いて貰いたいんだ」
大げさに両手を広げてそう言ったウロに、少年は何も言わない。いや、言えない。
その代わりに、ウロの後ろからやや苛立った声が投げ掛けられた。
「条件は揃っているのではなかったのか。だから私を呼んだのだろう」
その声を聞いて、そこで初めてウロの後ろにいる人物に意識がいった少年は、声の持ち主の姿を認め、ますます絶望したような表情を浮かべる。
本当は、目にしなくてもうすうす判っていた。この城で過ごした時間は短いが、ウロに対してこんな口の利き方ができるのは、恐らく一人しかいない。
そう、帝国の頂点に立つ人物。皇帝である。
皇帝がこの場に来たということは、恐らく準備が整ったのだ。何の準備かなんて、今更言われなくても判っている。どういう手順を踏み、自分がどういう目に合うのかまでは知らないが、以前デイガーが血がどうこう言っていたことを思うと、少年には悲惨な末路しか思い描けなかった。
「条件はまあ申し分ないと言えばないんだけど、もう少しだけ待ってよ。どうせ未来は決まっているんだから、それならできるだけ長く楽しみたいでしょ?」
「それはお前だけだろう。私は一刻も早く悲願を成就させたいのだ」
鋭い刃物のような皇帝の言葉に、しかしウロは一切怯むことなく、笑って手を振った。
「まあそうピリピリしないでよ、皇帝陛下。心配しなくても、もうあとちょっとだと思うよ。取り敢えずは、四つの結果を確認してみよっか」
そう言ったウロが、懐から掌サイズのガラス球を取り出して、その表面を覗き込む。
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