悲しい蝶

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「さて、大体の状況は掴めた。いよいよこれから終盤って感じだ。それじゃあエインストラ、少し僕とお話をしようか」  まるで全身に潜りこんで内部を這いずり回るような、酷く不愉快な声が、少年の耳朶を舐める。声自体は寧ろ耳心地良くすら感じるほどに爽やかで美しい音色なのに、一方でそれを覆すほどに、粘つく汚泥のような不快さを孕んでいて、そのちぐはぐさに吐き気がしそうだった。 「まずは、なんで君をこの場所に連れてきて、なんで暴力に晒し続けたか、なんだけど、前半はそれが絶対に必要だったからで、後半はその方が多少効果的になるかもしれないと思ったから」  相変わらず、人を馬鹿にしたような要領を得ない言葉を並び立てる男だ。疲労と怪我とで痛む少年の頭では、尚更理解できるはずがない。 「床の模様は、僕が長い時間をかけて描き上げた魔導陣なんだ。実行するなら空が見える場所が良いと思ってたから、ここを選んだ。この魔導陣の役目は二つ。召喚と、使役。元々帝国が開発していた魔導システムに、僕が更に独自プログラムを組み込んで仕上げた代物だよ。これに関して、実は僕は一切の手抜きをしていない。天秤のバランスと今の僕の力とを考慮した上で、ここに至るまでに出来得る最高の魔導を用意した。……だから、ここからどれだけ上手にこの陣が働くのか、僕もとても興味深い」  ウロの背後で、皇帝が苛立ったようにブーツを鳴らしたが、やはり彼は気にしないまま、未だ話を呑み込めずにいる少年に語り続ける。
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