悲しい蝶

8/16
前へ
/321ページ
次へ
「ひとつ、良いことを教えてあげよう。君がここの兵隊さんたちに虐められている間に、リアンジュナイルからこの帝都を落とすための精鋭部隊が送り込まれているんだ。そして、皇帝陛下に怒られることを覚悟で言うなら、正直戦況はとても芳しくない。勿論、帝国側にとってね。さっき確認した状況を見るに、もう暫く待っていたら、多分黄色の王様あたりが君を助けにここにやってくるだろう。今はまだ中央に帝国兵や魔物が多く残っているから単独行動ができないんだろうけど、彼が魔法を駆使して本気で走れば、ここまではあっという間だ。現在位置から見ても黄色の王様が一番ここに近いし、やっぱり彼が大本命だろうね。タイミングとしては、四大国の王様が全員中央部隊に合流したところで、ってとこかな」  さすがに円卓の戦力をあそこまで集結させられると、打つ手がなくなってくるよねぇ、と言ってウロは笑った。  話の内容自体は、帝国側のウロにとって笑えるようなものではないはずだ。少なくとも、少年はそう思った。だが、それでもウロは楽しそうな笑い声を上げている。まるで、今言った事態など大したことではないと言っているようだ。それとも、自分には関係ないとでも言いたいのだろうか。どちらにせよ、朗報を聞かされたはずの少年の心には不安しか残らなかった。 「じゃあ、次に悪いことを教えてあげる」  少年の前にしゃがみこんだウロは、やわく撫でるような優しさで、自分を見上げる少年の頭に手を置いた。 「円卓の助けは間に合わない。何故なら、その前に僕が目的を達成するから」  その言葉に少年が反応を返す前に、ウロの手が彼の頭を床へと叩きつけた。
/321ページ

最初のコメントを投稿しよう!

296人が本棚に入れています
本棚に追加