296人が本棚に入れています
本棚に追加
「帝国兵さんたちのぬるーい拷問に慣れちゃった身体には、染み渡るでしょー。なんか思ってたより手加減されてたみたいだから、想定よりずっと効果的かもねぇ」
楽しそうに言いながら、まるで楽器でリズムでも取るように、少年の頭を何度も何度も床に叩きつける。ウロの言う通り、これはこれまで自分が受けてきた暴力とは全く種類が違うものだ、と少年は思った。
少年が受けてきたそれらは、いつだって一種の恐れを孕んでいた。殺したくない。自分の手でとどめを刺したくない。自分が命を奪ったという実感を持ちたくない。そういう、少年の安否とは全く関係ない純粋な自己保身が故に、彼が晒される暴力は、いつだって最後の枷が外れていないそれだった。
だが、ウロは違う。ウロは、少年が死のうと生きようとどうでも良いのだ。痛めつけた末に少年が死んだとしても欠片も気にしないし、それが自分の手によるものだとしても、悲嘆も歓喜も抱かない。
どうしてだか、少年にはそれが事実だと判った。故に恐怖する。自らの手による相手の死を厭わない暴力を受けるのは、初めてだったのだ。
(…………あれ? ……本当に、そうだっけ……?)
朦朧とする意識の中で、ふとそんな考えが浮かぶ。初めてのはずだ。そうでなければ、脆弱な自分がこうして生きているはずがない。だが、まるでそれを否定するように、頭の中に何かの影が浮かぶ。
(……なんか、前にも、こんなことが……)
状況はまるで似ていないように思えるが、そう、かつて似たような暴力に晒されたことがあるような、妙な既視感がある。そっちはもっとずっと悲惨で、悲壮で。もうどうしようもなかったから、最後の枷が外れてしまったような、そんな。
最初のコメントを投稿しよう!