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(……でも、それならどうして、僕は生きているんだろう……)
浮かんだ疑問は、何度目になるか判らない衝撃を顔に受けたところで、その意識ごと霧散した。しかしウロは、それで許してくれるような相手ではない。
「あれれ? トんじゃった? はーい、それじゃあ起きようかー」
そう言って笑ったウロが、意識を失ってぐにゃりとした少年の身体に手を伸ばし、その左足首を掴む。そして彼はそのまま、握ったそこに力を込めた。
ぐちゃり。
硬質な音と粘着質な音が混じった嫌な音が響き、同時に少年が目を見開いて悲鳴を上げる。あまりの痛みに痙攣しながら音の方を見た彼は、目に映ったものに再度悲鳴を洩らした。
左の足首が、文字通り千切り取られていたのだ。
「あ、ちょっと骨を折るだけのつもりだったのに、加減をミスっちゃった。人間の身体は脆いねー」
赤く染まった手をひらひらと振りながら、ウロが肩を竦める。だが、少年にはそれを見ている余裕などなかった。想像を絶する痛みと恐怖に全身を引き攣らせて、はくはくと荒い呼吸を繰り返す様は、まるで陸に打ち上げられた魚のようだ。
燃えるような熱と凍えるような寒さが同時に身体を襲い、冷や汗がどっと溢れ出す。何もかもが絶望を訴える中で、しかしその首元で広がる熱だけが、少年がひとりぼっちではないことを教えてくれた。
縋るべきものを求める少年の手が、ほとんど無意識に自分の首元に伸びる。こんな状況だというのに、遠慮するような控えめな強さで、その手がストールの縁を握った。そうしていると、ほんの少しだけ痛みが和らぐような気がしたのだ。
少年のその行為を受けてか、首元が更にふわりと熱くなった。それがまるで怒ってくれているように思えて、少年の心がほんの少しだけ凪ぐ。
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