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「うーん、やっぱりこれくらいじゃ駄目か。君を護る盾は剥いだ筈なんだけど、一人になっても意外と耐えるね。まあ君の源流を考えれば、その肉体を生かすことに固執するのも判るけど」
ウロの話は少年には理解できないものだったが、だからどうということもなかった。そもそも今の少年には、他人の言葉に耳を傾けるような余裕はないのだ。
「この様子じゃ、もう片方の脚をもいでも意味ないだろうなぁ。君にとって脚はそんなに大事なパーツじゃないもんね。うん、それじゃあ、」
ウロの血濡れた指先が、少年の右腕を滑った。
「この手を潰しちゃおうか」
ごくごく軽い声で、なんでもないことのように、ウロがそう言った。
瞬間、少年の顔からこれ以上ないほどに血の気が失せる。最早脚の痛みなどはその意識から飛び、彼は彼らしくない大きな声で叫んでいた。
「駄目! それだけは駄目!」
縋るような声に、ウロが仮面の内でにんまりと笑う。
「うんうん。駄目だよねぇ。知ってるよ。でも、だからそうするんだ」
壊れものに触れるような手つきで、ウロが少年の右腕を優しく撫でる。そしてそのまま、ウロは触れているそれをそっと握った。たったそれだけの動作で、少年の身体ががちがちに強張る。先ほど自分の左脚を襲った悲劇を思い、それが右腕にも成されるのだと理解して、だが凍ったように固まって動かない身体では、逃げを打つことすらできない。
駄目だ。逃げろ。それは己の意義そのものではないか。心の奥底がそうやって叫ぶのに、それを実行するには余りにも少年は弱すぎる。
(この手は、たった一つ僕に許された誇りなのに)
握られた場所が、みしりと音を立てる。その恐怖に、少年は思わず目を瞑った。
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