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それだけは駄目だ。少年は生きなくてはならない。違う、生かさなければならない。少年はあの子を生かすために生まれた一人で、あの子を愛すための存在なのだ。だから、この身体を死に追いやることはできない。あの子を見捨てることはできない。何を捨ててでも、少年だけは最後まであの子の味方でなければならないのだ。
(……あの子、って誰……?)
ぐちゃぐちゃになる思考の中で、ふと思う。おかしい。こういうときはいつだって、誰かが自分を助けてくれて、思い悩む種を取り除いてくれていたはずだ。なのに誰も助けてくれない。ノイズを払っていつも通りに戻してくれない。何故だろう。どうして。なんで自分が全てを負わなければいけないんだろう。
(…………あの子……?)
頭が割れるような頭痛がする。脳裏に、自分によく似た誰かが浮かんだような気がして、けれどすぐにそれは陽炎に揺らいだ。そして、浮上しかけたその影を焼き払うように、炎の赤が頭一杯を支配する。
「…………あな、た……?」
結局最後に残ったのは、どうしてだか、炎のようなあの人の顔だった。いつもと変わらない穏やかな笑顔が少年を見つめて、そしていつものように言うのだ。
(……ああ、……あの人、なら……、)
あの人なら、もしかすると、こんな自分でも。
奥底を抉り出すような激しい胸の痛みが、ゆるりと収まっていく。乱れた呼吸が少しずつ穏やかになり、少年は床を掻いていた手を止めた。
そんな少年の様子を見て、ウロが眉根を寄せる。
「……ふぅん。まだ足りない、……というより、踏みとどまったね? まったく、眠らせておいてもなお邪魔してくるなんて、ほんと嫌な王様だよ」
そう言って溜息を吐いたウロが、爪先で少年の顎を蹴り上げる。その衝撃で跳ね上がった頭を掴み、ウロは少年の顔を覗き込んだ。そしてその手が、己の仮面を剥ぎ取る。
底なしの虚ろのような黒い瞳が少年を捉え、にんまりと笑った。
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