悲しい蝶

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「でも、これは耐えられないよね?」  その言葉と同時に、ウロの右の指先が、少年の左目に深々と突き刺さった。 「~~~~っ!!」  少年が、引き攣った声を断続的に零す。これ以上ないほどに絶望に染まったその表情を見て、満足そうな顔をしたウロは、まるで駄目押しだとでもいうように、丁寧に丁寧に左の眼窩を掻き混ぜてから、原型を失った目玉をずるりと引き抜いた。そして、少年の頭をひと撫でしてから、彼の右目を覆う眼帯を取り去る。   「あーあ、汚い目」    瞬間、少年の異形の目が強く輝いた。その口からは獣の慟哭のような絶叫が吐き出され、それに呼応するように右目の蝶がちかちかと明滅して、床に描かれた魔導陣が端から流れるように光を放ち始める。  もう何も考えたくない。早くここから逃げたい、逃げ出したい。そう、どこか遠く。ここではない、遥か遠くへ――!  そんな思いだけが少年を支配し、その思いが強くなるほどに、蝶が輝きを増す。そしてついに、右目の蝶が一際強く輝いて、その模様が、ぶわりと宙に浮かび上がった。  そのままカッと爆発するように光を弾けさせた蝶が、一瞬で天へと昇り、巨大な紋様となって空一面を覆い尽くす。そして、まるで蝶が羽ばたくように、その羽が一度だけひらめいて。    次の瞬間、空が大きく二つに割れた。    蝶を割るようにして裂けた空のその先は、水面のように揺らぐ膜のようなもので覆われており、そしてその膜を破るようにして、巨大な何かが堕ちてくる。重力に引かれて落下するようにやってきたその姿を認め、ウロは掴んでいた少年の頭を放り投げて、その目をきらきらと輝かせた。 「やあ! よく来たね!」  その声に反応するように、落下してきたそれが宙で大きく翼を広げる。  光の蝶の羽ばたきに導かれるようにして現れたのは、かつてロステアール・クレウ・グランダが出会った、あの真紅の竜だった。
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