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ただ、そんな形容し難い姿の中に、ひとつだけ見覚えのあるものが存在することに、皇帝は気づいた。月の色と言うには余りに主張が強い、金色の瞳。蝶のような紋様が浮かぶ、あれは、
『……世界の隔たりを越えるもの。まさか、真の姿なきものの真の姿を目にする機会があるとは』
頭に直接響くような不思議な声に、皇帝の意識がそちらへと移る。理由は判らないが、彼の直感が、これこそが竜種の声なのだと告げていた。
得体の知れない何かをエインストラであると断言した竜は、僅かに憐れむように目を細めたあと、ゆるりと周囲を睥睨した。
『精霊の気配が色濃く、しかし五大精霊王は存在しない。それに加えて、この残り火のような気配。……基幹次元、リエンコルムか。基幹次元同士の干渉は、万に一つも偶発的に生じることはない筈だが……』
そう言った竜は次いで、ウロを睨んだ。
『また貴様の仕業だな、第四座』
明確な殺意と共に対象を射抜くその目は、間違いなくウロをのみ捉えている。だが、それでも皇帝は、逃げるようにして数歩後退ってしまった。一方で、当のウロはまるで気にした様子もなく、人懐っこい笑みを浮かべて返した。
「さすがは竜種。十年くらい前のあれも、僕がやったことだって気づいてたんだ」
『お前の残滓は吐き気がするほどに臭うからな』
「やだー、まるで僕が臭いみたいな風に言わないでよ。これでもきちんとお風呂入ってるんだよ?」
頬を膨らませて言うウロを見て、竜が喉の奥で唸るような声を出す。だが、やはりウロはまるで気にしていないようだった。
『それにしても、また随分と悪趣味なことをしたようだな。エインストラがあの姿を曝すなど、そうあることではない。己の姿を見失うほどに追い詰めたか』
唾棄するように言った竜に、ウロが肩を竦める。
「嫌だなぁ、悪趣味だなんて。寧ろ僕は、精一杯情けをかけたよ? だって炎獄蜥蜴は火の眷属だし、あれに至っては、半端ものとはいえ神の目じゃないか」
『果てに至る結果がどうあれ、悪趣味なことに変わりはない』
「おや、竜種しては珍しく感傷的だね。他種に何がしかの感情を抱くなんて、竜王よろしく誇りも忘れたかな?」
小馬鹿にするような物言いに、竜が纏う空気が一変する。
『……俺をここに喚び出したこと、後悔させてやろうか?』
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