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一度瞬いたレクシリアは、視線を手元に落とした。
レクシリアの両手には、赤を基調とした飾り箱が抱えられている。細かな装飾が施された、重厚な箱だ。だが、レクシリアにはそれを開けることができない。この箱は特殊な構造をしており、鍵穴の存在しない錠で厳重に封印されているのだ。
少しの間箱を見つめていたレクシリアは、眠り続ける王へと視線を移した。
国とは民そのものであり、唯一民でない王はその定義から外れるのだ、と。故に、王がなくても国は在り続けるのだ、と。幼馴染であるこの王は、そう言った。レクシリアも、その考えを理解し、正答であると思っている。だが、民が国ならば、王とはまさに太陽だ。陽の光なくして、果たして人は生きられるのだろうか。
「……何よりも優先されるべきは国民だと、お前なら迷いなくそう言うんだろうな、ロスト」
目覚めぬ友人を前に、レクシリアはぽつりと呟く。
「お前は感情を発露することができないから、いつだって俯瞰した立ち位置で物事を判断できる。だから、お前が今までやってきたことには、一分の無駄さえない筈だ」
王は何の言葉も返さない。それでも、レクシリアは言葉を止めなかった。
「知っているさ。俺は誰よりもお前のことを見てきた。感情が欠落しているせいで忌避されてきたお前も、立ち回りの仕方を覚えた途端に味方を増やしていったお前も。全部、誰よりも近くで見続けてきた。少しでもお前に近づければと、少しでもお前の力になれればと、自分の右腕だと言ってくれるお前に応えられればと。そう思って、ここまで研鑽を積んできた」
唇から零れる言葉たちは、驚くほどに起伏がない。レクシリアの声は、感情が籠っていないような、それでいて溢れ出すものを抑え込むような、不思議な音を奏でていた。
「…………お前が、」
そこで言い淀んだ彼は、初めて僅かに表情を崩した。
「……お前が、俺のことを右腕だなんて欠片も思っていないことも、親友だと思っていないことも、全部、知ってるのにな」
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