プロローグ

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 ロステアール・クレウ・グランダには感情がない。だから、彼が発する言葉は全てが空虚だ。 「俺がいなくたってお前は平気だ。微塵も困らないだろう。だから俺は、お前の右腕にはなれない。お前は、お前一人で完璧な王だ」  人の心を持たない孤独な王の本質を、レクシリアだけが知っていた。王が心から愛するあの少年が現れるまで、それはもうずっと長いこと、レクシリアだけが抱えていた秘密だった。  そんなレクシリアだから、判ることがある。ロステアール・クレウ・グランダは感情を持たないからこそ、最高にして最良の王足り得たのだ。ならば、彼の行動には全て意味がある。本当の意味では遊び心すらも持たないこの男が、無駄なことをする筈がない。ロステアールが行ってきた友達ごっこも、信頼ごっこも、全てが必要なものであり、彼が王として在るための術だった筈だ。  レクシリアは例外にはなれない。それは、この偉大な王が初めて恋をしたあの少年にだけ与えられた栄誉だ。そしてその栄誉は、レクシリアが求めるものとは全く違う。だから、レクシリアは求めない。いや、求めることはとうに止めた。彼がこの王に求めて得られたものなど、何ひとつなかったのだから。  だが、それが一方的なものだと判っていて、それでもレクシリアは自分の感情を疑おうとはしなかった。レクシリアだけはずっと、ロステアール・クレウ・グランダのことを心から親友だと思っていた。 「俺のお前への絶対的な信頼すら、お前に仕組まれたものだったとしても、……それでもお前は、俺の親友だ」  迷いのない目でそう言ったレクシリアが、ベッドの傍にある机の上に、抱えていた箱を置く。そこで一呼吸した彼は、次いで部屋の窓を大きく開け放った。 「グレン!」
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