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名を叫べば、空から鮮やかな炎の王獣が駆けてくる。レクシリアの呼び声に誘われて部屋に入った王獣は、眠る国王を見やってから、レクシリアへと視線を移した。王に良く似た炎の瞳が、レクシリアを見つめる。魂の奥を見透かそうとするようなその視線を正面から受け止めたレクシリアは、傍らの箱を指し示した。
「開けろ。お前の仕事だ」
敬意の一切を排した声に、王獣はレクシリアを見つめ続ける。だが、レクシリアが決して目を逸らそうとしないことが判ると、王獣は一度だけ目を伏せた。それを合図に、箱がひとりでに、かちゃりと音を立てて開く。
そこに収まっていたのは、炎でできた王冠だった。金属と宝石でできた儀礼用の王冠とは全く違う、炎のみで形作られたこの王冠は、王位継承の際にのみ用いられる特別なものだ。普段はこの特殊な箱に封印され、王獣の意思がなければその箱を開けることすらできない。
レクシリアは、そんな炎の王冠に手を伸ばして無造作に掴み上げた。
「どうせこいつは、最初からここまで考えてたんだ。こういう形でその時が訪れると思ってたかどうかまでは知らねぇけど、概ね想定通りなんだろうよ。だから、ようは順番の問題なんだろうな。この順番の方が、俺にとってはより正解だった。そりゃそうだ。こいつはくすんだ赤だが、俺は赤ですらない」
レクシリアの右手が、王冠を握りしめる。握りしめた炎は、暖かくも冷たくも感じられた。
「ロストの行動に無駄はない。あいつは俺を右腕だと言い、親友だと言った。なら俺は、あいつの右腕として、親友として、最も正しい判断をする」
そう言ったレクシリアが、しかしそこでふっと表情を緩め、少しだけおどけるように王獣に笑いかけた。
「でも、ちょっとくらい意趣返ししたって罰は当たらねぇよな?」
そんな彼に、王獣はやはり何も言わない。だがレクシリアには、王獣の目が慈しむような光を映したような気がした。
それに目を細めたレクシリアが、一呼吸の後、握った王冠を頭に被る。そして彼は王獣を見つめ、高らかに宣言した。
「我が名はレクシリア・グラ・ロンター! 第一位の王位継承権を以て、王位を簒奪する者なり!」
瞬間、頭上の王冠が大きく炎を噴き上げた。そのまま見る見るうちに己を包み込んだ炎の内側で、レクシリアが叫ぶ。
「俺を認めろグレン! 今この瞬間より、俺がグランデル王国の国王だ!」
簒奪者たる男の叫びに、王獣は炎を躍らせて咆哮した。
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