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ロステアールは確かに、現在の円卓内における最強と称するに値する力の持ち主だった。そんな彼が倒れ、現在も意識不明のままであるという事実は、王たちの間に暗い影を落とした。
「そこそこ戦える自負がある俺ですら、ウロに遭遇した瞬間は身が凍るような悪寒が走った。その結果があのザマですよ。敵を認識して即座に行動することができず、数手遅れて発動した魔法も、てんで歯が立たなかった。そりゃ、俺が出したのは詠唱破棄で発動できる程度の魔法ではあったけど、それでもかなりの高威力だ。それを指先で軽く弾かれたんだぜ? こういうこと言うべきじゃねーのかもしんないけど、……俺には、あれに勝てるビジョンが全く浮かばない」
戦う前から諦めるのか、とは、誰も言わなかった。別に黄の王が諦観からこのような発言をしている訳ではないことくらい、判っているのだ。事実として敵わないと思ったからこそ、彼はそれについて言及し、その状況をどう打破するのかを尋ねている。だが、長きに渡って玉座に座ってきた銀の王ですら、それに対する答えを出すことはできなかった。
誰しもが黙り、重い空気が流れる中、不意に長いため息が吐き出される音がした。
「はぁ~~」
黒の王である。
緊急事態だからと珍しく遅刻も欠席もせずに出席していた彼は、深いため息を吐き出し切ったあと、銀の王を見た。
「俺がやるよ」
「…………できるのか、お主に」
銀の王の問いに、黒の王が首を傾げる。
「さぁ? できるかどうかは判らないけど、やるとしたら俺でしょ。こういうときの黒の王なんだし、そもそも黒は王の不在には一番慣れてるからね。一番死んでも良い王が俺なんだから、だったら俺がやるよ」
「……お主に、あれが殺せるのか」
「だから、そんなこと判んないって。でも、赤の王が駄目だった今、可能性が残ってるのは俺だけでしょ。ヴェルを使ってやってみるよ。でも多分俺は死ぬから、相打ちにできたら御の字くらいに思ってて」
淡々と言った黒の王に、金の王が椅子を蹴って立ち上がった。
「お待ちくださいヴェールゴール王! 死んでしまうかもなんて、そんな、っ、も、もっと、何か、良い方法が、」
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