戮力一心

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 幼い王の発言に、銀の王が彼を睨んだ。だが、そんな銀の王を手で制した黒の王が、金の王を見て口を開く。 「良い方法なんてないよ。一番強い赤の王がやられたんだ。だったら、俺がやるのが一番良い。俺は正面切っての戦闘能力は低いけど、暗殺だったら一番凄いからね。それに、ヴェルがいれば存在の遮断も身体能力も暗殺能力も、全部飛躍的に向上させられる。…………判るかな? 俺とヴェルなら、この刃が相手の喉元に届く瞬間まで、相手に悟られないことができる。たとえ相手が神だったとしても、条件さえ整えば、俺とヴェルなら絶対に気づかれない。幸いなことに、敵は干渉の問題とかで色々と制限がかかってる状態だ。そこに薄紅の協力があれば、確実に刃を届けることはできる。それは約束するよ。ただ問題は、この刃が届いたあとだ。刃が敵に触れる前なら俺の存在は消せるけど、僅かでも触れた瞬間に、俺はそこに存在してしまう。あとはもう、速度勝負だよね。ありとあらゆる制限をとっぱらった俺の速度は王獣すら越えるけど……、……でも、多分、相手の方が速い」  そこで再び、黒の王がため息を吐いた。 「今のままじゃ、十中八九俺は返り討ちに合って死ぬ。でも、うまく条件を整えれば、一回くらいは殺せるかもしれない。多分重要なのはそこなんだ」 「……こ、殺せる、ので、あれば、ヴェールゴール王が死ぬことは、ないのでは……?」  恐る恐る言った金の王に、黒の王が呆れた顔をした。 「馬鹿だなぁ、あんた。一回くらいは殺せるかもって言ったけど、二回目は無理だよ」 「あ、あの、どういう……?」 「相手は神様なんでしょ。だったら一回殺したくらいで死ぬ訳がない。だって最上位種なんだから。殺した瞬間に蘇る可能性は高いし、殺しきれない可能性だってあるし、そもそも死という概念自体がないかもしれない。まあ、死という概念がないだけなら、その概念を付与して殺すこともできるんだけど、今回は相手が相手だからそれも無理そう。だから、俺ができるのは、最低で掠り傷、最高で一度きりの殺害。それだけ。死んでも刃は届けて見せるけど、その結果がどうあれ、次手で俺は確実に死ぬ。つまり、俺が命を懸けたところで、一矢報いることくらいしかできないって話。……でも、多分その一矢が物凄く重要だからね。まあ、命を捨てるだけの価値はあるんじゃないかな」  やはり淡々とそう言う黒の王に、金の王は彼を見つめた。そして、どうしても耐えきれないという風に、ぽつりと零す。 「……死が、怖くは、ないのですか……?」
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