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あまりにも幼い、稚拙な言葉だ。そんな小さな王の言葉に、黒の王が僅かに目を細め、それから呆れた表情をする。
「怖いに決まってるじゃん。死ぬのは嫌だし、痛いのも嫌いだよ。でも、一番死んでも問題ないのが俺なんだから、しょうがない。他に死んでも良い奴がいたらそいつに任せるけど、俺しかいないからね」
だから嫌だとか言ってられない、と続けた黒の王に、金の王が僅かに息を呑む。そして彼は、恥入るように自身の唇を強く噛んだあと、深々と頭を下げた。
「若輩が愚かな発言をしました。申し訳ございません」
「別に謝ることないんだけど」
「いえ。貴方の王としての覚悟を侮辱する発言でした。本当に、申し訳ございません」
下げた頭を上げようとしない金の王に、黒の王は困った顔をして銀の王を見た。銀の王ならば、王が軽々しく頭を下げるなと言ってくれるかと思ったのだ。だが、黒の王の予想に反して、銀の王は何も言わない。それを見た黒の王は、やはり困った顔のまま、金の王に視線を戻した。
「あー……、じゃあ、謝罪は受け取るよ。よく判んないけど、こういう事態だからさっさと成長しろってことなんだと思うから、頑張って成長して。……でも、別に俺、王としての覚悟とかそういうので動いてる訳じゃないよ?」
黒の王の言葉は本心だ。この王は、いや、この場にいる王は全て、淡々と命の重さを推し量る。切り捨てるべき命を見出せば容赦なく切り捨てる代わりに、己がその対象となったとしても一切躊躇しない。それを当然のようにやってのけること自体が覚悟の表れなのだと、金の王は思う。だから、その覚悟が不足していた自分が恥ずかしくて仕方がなかった。
「先の発言は、私の覚悟が不足していたが故のものです。円卓の王として、最も恥ずべき行為でした。深く反省し、今後二度とこのようなことがないよう、私の持ちうる全てを以って、尽力して参ります」
ぎゅっと拳を握った幼王を前に、沈黙が訪れる。その沈黙を破ったのは、銀の王だった。
「理解したならば、心せよ。お主を測るのは今ではない」
自身に向かって放たれた言葉を受け止め、その意味するところを理解した幼い王は、顔を上げた。そして彼は、最年長の王を真っ直ぐに見つめ、深く一礼してから着席した。
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