プロローグ

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プロローグ

 赤の国、グランデル王国の一室。国王専用の特別医務室では、ベッドに横たわる赤の王と、彼を見下ろす宰相レクシリアの姿があった。  赤の王が倒れた直後、黄の王はすぐさま王獣を使い、赤の王の身をグランデルまで運び出した。さすがに意識不明の他国の王を、そのまま黄の国に置いておくわけにはいかないと判断してのことである。  無論、赤の王の昏睡の原因がウロから受けた傷によるものならば、このような対応にはならなかった。黄の国内で即座に治療体制を整えただろう。だが驚いたことに、赤の王の身体には傷らしい傷が存在しなかった。確かにウロの手は赤の王の胸を深々と貫いていたというのに、その痕跡の欠片すらなかったのだ。  目立った怪我がある訳ではない。毒や呪いの類による内側からの浸食も見受けられない。それなのに、どんなに覚醒を促しても、決して目覚めることがない。  そんな赤の王の症状に、黄の王の判断は迅速だった。これは自国の医療で解決できる事態ではないと判断した彼は、赤の王の身柄をグランデル王国へと搬送し、同時に集中治療に当たるようにと白の国へ伝令を出した。 (……白じゃなくて赤の国(うち)にロストを運んだのは、リィンスタット王の優しさだな。相変わらず、甘い王だ)  そして同時に、そこまで絶望的なんだな、とレクシリアは思う。  黄の国からならば、赤よりも白の国の方が近い。もし赤の王を治療する手立てがあるのならば、円卓の王たるクラリオ王は、間違いなく赤の王を白の国へ送っていただろう。だが、彼はそうしなかった。それはつまり、白に送ったところで赤の王を治療することはできない可能性が高い、という判断が下されたことを意味している。 (正しく、同時に慈悲に溢れた判断だ。王の遺体を他国に放置することを喜ぶ民など、少なくともうちにはいない。そして、主人の死体を前に取り乱す愚昧な臣下も、うちにはいない)  ロステアール・クレウ・グランダは死んではいない。ただ眠っているだけだ。だが、王としては遺体だ。国家の危機に何の指示も下せない王など、死んだも同然である。
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