ハイキング

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 どうする? 左から滝を見おろす所まで上れるんだけど、すぐ上がれるけど? とトモエに誘われたが、水量も微妙だし……とミワが口ごもると、じゃあ次行こう! とトモエはまた元気よく先に立って歩き出した。  いや、もう降りて行ってもいいかも、ということばを飲んで、ミワは仕方なく後に続く。  滝つぼの脇から更に山に登っていくと、農道にぶつかった。下ればそのまま元白鳥の集落まで帰ることができるが、トモエはもう少し上ってみよう、とミワを誘った。  コンクリートで細かい刻みのついた、車がすれ違うのもやっとという農道が、大きくうねりながらある時は雑木林を、ある時はミカン畑の合間を、ある時は竹林の中をずっと上りながら続いている。 「あれさ」  雨のせいだろうか、崖が少しばかり崩れてむき出しになっている所を、ミワは指さした。 「豆腐石かな?」  確かに道の脇、崖下に、黄色っぽい肌の、直方体に近い自然石がひとつ、転がっていた。一辺が三〇センチかそこらだ。 「えー、古い話知ってるねー」トモエが面白そうに笑う。「確かに、四角いよね、黄色いし」  それから悪戯っぽく問いかけてくる。 「持って帰りたい? 五〇キロはないと思うよあれなら」 「えーやだよ! 呪われたくないもん」  そこか! 重さじゃないのか! とトモエが笑い、つられてミワも笑いだした。 「リュックにはちょっと入りそうもないしねー」  そう言えば家の玄関先にも白っぽい石の板が敷かれていたよね、とミワが訊ねると、うんうん、とトモエがうなずいた。 「あそこ買った時に、お父さんが石の板を敷いたんだよ、ホームセンターで安く売ってた、って言ってたかなぁ」  何だかお洒落で気になったんだよ、とミワが言おうと思った時、トモエが 「まだ神社、見えないよ。日が暮れちゃう、急いでいそいで!」  そう、背中を押してきた。
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