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ハイキング
近所の案内、と言っても、実質は山登りだった。
裏庭から見えていたのが『大山(おおやま)』、元白鳥のシンボルともなっている。
オオタルと神社に案内するよ! とトモエは先に立って元気よく歩き出す。
いや、どっちも昔おじいちゃんにつれてってもらったことあるから……と遠慮がちに断ったつもりだったが、結局そのまま引っ張って行かれた。
昔、おじいちゃんや他の親戚からよく聞かされていた話をミワはいくつも思い出していた。
たいがい、この大山に関する言い伝えみたいな話が多かった気がする。
そしてどれもちょっぴり、小さなミワには空恐ろしく思えたものだった。
滝の裏の洞窟の話、血吸いコウモリ(実際にコウモリはいたが、人の生き血は吸わないはずだった)、神社の黒装束連中、豆腐石などなど……
沢伝いに上ること三〇分。ミワがぜいぜいしてきた頃、トモエが急に立ち止まった。
「ほら」
トモエはうれしそうに前方を指さす。
竹林に遮られてよく見えないが、水音が明らかに変わってきたのにミワも気づいた。
「もうすぐだよ」
滑るから気をつけてね、と言いながらも沢の岩場を選びながら進むトモエの足取りは軽い。慣れた道のようだ。右に左に、沢を伝い、大きな岩を回り込むようにして、ふたりは滝つぼの前に立った。
感動という程の水量ではなかった。それでも、首をほとんど真上に向けて見上げるほどの岩壁から、いくすじも細く水が流れ落ちている。
まだ幼稚園くらいの頃、おじいちゃんとイトコたちに連れられて、この滝の下に立ったことがあったのを思い出した。
その時には、おじいちゃんの言い方もあったせいか、他に滝など見たことがなかったせいか、この『オオタル』がこの世で一番大きな滝だと思いこんでいた。水ももっと多く、こんなに近くには寄れなかったはずだ。
その話をすると、トモエは、くすりと笑って言った。
「お父さん、茶目っ気だけは人一倍だったからねえ。言いかねないね。それにここに来たの、雨上がりだったでしょ、たぶん」
そう言えば、せっかくの夏休みなのに何日も雨にたたられた気がする。
楽しみにしていた川辺でのバーベキューが中止になって、すっかりふてくされていたミワに、夕方近くようやく雨が上がった頃、「それなら『にっぽんいち』の『オオタル』を見に行こうか」、とおじいちゃんが声をかけてくれたのだった。
「雨が降るとねえ、ちょっと、すごいんだよ」
トモエの言い方はどこかやっぱり、おじいちゃんに似ている気がした。
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