-猫文学 旅行鞄と旅猫より抜粋-

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

-猫文学 旅行鞄と旅猫より抜粋-

黒猫さんは旅猫です。 小さな旅行鞄と色んな街をお月様をお供に旅して来ました。鼈甲の吸口のパイプから紫煙を燻らせて、今夜の寝床を探します。夜空のお月様は「こっちだよ」と月明りで路を教えてくれます。黒猫さんは上等な一軒の宿を見つけました。 黒猫さんは今宵も、小さな旅行鞄を携えてお月様をお供に旅を続けています。 ふと水晶の様に澄み切った花が咲く原っぱに出ました。夜空からはひと筋の宝石粒が溢れる様にするりと流れて、黒猫さんもお月様も、何だか今夜はツイてるぞ、と思いました。 黒猫さんは旅猫です。 小さな旅行鞄の上に座り、象牙で作られたパイプから、ふうっと紫煙をふかしました。次の街に向かう夜汽車を待っているのです。駅舎で宙を見上げると、お月様が鋭くピカピカ光る三日月に成って、黒猫さんを見つめ返しました。艶々なお月様は自慢気です。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!