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5.川のほとりで
篠原のことを洸くん、と呼ぶおばあちゃんは、とても可愛らしい人で、すみれも一目見て大好きになってしまった。
お茶だ、お菓子だ、お茶うけだ、といろんなものが出てくる。
そのどれにもありがとう、と笑顔で返す篠原は本当に家族想いなんだな、と見ていてすみれも温かい気持ちになった。
「で洸くん、この人は…」
「紹介するね、俺のお付き合いしている人、葉山すみれさんだよ。」
「初めまして。葉山すみれです。」
すみれはそう言って笑顔を向けたけれど、このとても良さそうな人に、本当のことではないことを言うのは正直胸の奥が痛んだ。
まあ、可愛らしい方ねぇ、よかったわね洸くん、と喜んでいる様子を見たら、尚更だ。
「おばあちゃん、何か手伝うことある?」
「今日の夜、ちらし寿司をやるのよ。」
「ああ、おばあちゃんのちらし寿司大好き。」
「うん、洸くんはいつもそう言ってくれるから。錦糸卵、好きでしょう?卵買ってきてくれる?」
「はい。すみれちゃんも一緒に行こう?」
篠原がすみれを呼ぶと、おばあさんはにこにこしてそれを見ていた。
「うん。行きます。では、行ってきますね。」
「はい、行ってらっしゃい。」
送り出されて、外に出る。
外では篠原が待っていて、2人で田舎の道をてくてくと歩いた。
景色がとても綺麗だ。
夕刻のこの時間は、遠くに見える山の稜線が空にくっきりと映えている。
緑が多くて、近くには綺麗な川が流れていた。
すみれは少し大きく息を吸った。
心なしか空気もきれいな気がする。
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