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「とても…綺麗なところですね。」
「田舎でしょう?」
「すごく、素敵です。山があって、川があって…」
「ああ、もう少し行ったところに橋があるんだ。そこからは夕陽が川の方に沈むのが見えて、朝は山から日が昇るのが見えます。今なら日が沈むところが見えるかも。」
立ち止まった篠原は、その方向を指さす。
一緒に立ち止まったすみれは、その様子を想像して、とても素敵な光景なのだろうなと思った。
「見てみたいな。」
けれど橋の上に着いたころには日は沈んでいて、沈みかけの淡い紫色のグラデーションが空いっぱいに広がっているだけだった。
橋の上からすみれは、川の奥に広がる風景を見つめる。
緩やかにカーブする川と、青くてきれいな流れ。
空の光が水面にきらきらと、反射していた。
「沈んじゃったね。」
「でも…綺麗…。」
「うん。」
「この先にね、卵の無人販売があるんだ。おばあちゃんの錦糸卵は美味しいよ。すみれちゃん、ちらし寿司好き?」
まるで、言葉が途切れることを恐れるように篠原は話し掛けてくる。
「篠原さん、…」
「なに?すみれちゃん?」
篠原さんといったすみれに、すみれちゃんと返す篠原。
「いいんですか?」
ふ、とすみれの足が止まる。
「なにが?」
篠原が、足を止めたすみれを振り返る。
すみれは、篠原の顔を見たけれど、逆光で影になっていて表情がよく分からなかった。
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