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そのうちに、仕事で誰かが彼女の隣に立って、それに対して彼女が笑顔を向けることにすら、引っ掛かりを覚えるようになった。
仕事の話しだと分かっている。
けど、そんなに密着する必要あるか?
ああ、もう、彼女が優しいからって、なんでもかんでも依頼するなよ。
すみれが誰かと笑顔で話しているのも気になって。
楽しいのかな…と思ったりする。
自分にそんな笑顔を向けてくれたらいいのに。
そんな時に給湯室にすみれがいるのを見かけた。
ちょうど、帰ってきた営業社員のために、コーヒーを淹れに来ていたようだった。
「葉山さん?コーヒー、いい香りですね。」
「お疲れ様です。今、お帰りですか?」
「うん。俺もコーヒー飲もうと思って…。」
「良かったら、お飲みになります?」
夢にまで見たすみれのコーヒーだ。
「いいんですか?是非。」
「もちろんですよ。どうぞ。」
それは先輩の言う通り、本当にまろやかで、爽やかで、とても美味しいコーヒーだったのだ。
台所でおばあさんと仲良く話をしながら片付けをしているすみれの後ろ姿を見て、篠原はぎゅっと拳を握った。
分かっている。
こんなやり方は良くなかった。
正しくない。
自分はただ、すみれの優しさに付け込んだだけ。
今、こうして篠原の大好きなおばあさんと一緒に、楽しそうに過ごしてくれているのは、とても嬉しい。
けれど、それは彼女が優しいから。
なのに、誤解してしまいそうになる。
本当に彼女と付き合っていて、彼女があの柔らかい笑顔を篠原に向けてくれている、と。
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