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寝る準備で、自分のバッグをがさがさしている篠原の後ろ姿を見て、すみれの鼓動は高まる。
シンプルな服装だから分かる。
篠原の背中の広さ。
こんなに男性っぽい人なんだ…。
「えっと…、寝ようか?」
「はい…。」
そう返事をしてすみれは布団に入った。
「眩しくない?」
篠原の枕元には、小さな間接照明が置かれている。
そんなことにまで気を使ってくれる篠原を、好きにならない訳がなかった。
「ん、大丈夫です。」
これは期間限定の関係。
だから、帰ったらもう何もないこと。
そう思うと、すみれは目元が熱くなってしまうのを止めることができなかった。
どうしてこんなことを引き受けてしまったんだろう。
その時は自分がお休みでも、行くところも一緒にいる人もいなくて、問題はないと思ったから。
まさか、こんなことになるとは思わなかったから。
すみれは布団をキュッと掴む。
そのことが、こんなにつらくなるなんて思わなかったから…。
「葉山さん…?」
夜の帳の中に、柔らかい光と優しい篠原の声。
コツ、コツ…と部屋のどこかで、秒針を刻む時計の音が聞こえる。
「はい…?」
「寝れない?」
「いえ…。」
夜はどうしてこんなにも人を近くするのだろうか。
昼間に同じ距離でいるよりも、この夜の中に包まれていると、距離を近く感じて…困る。
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