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8.無期限の恋人
翌朝、早くに目が覚めたすみれは、篠原がすう…と寝息を立てているのを確認して、そっと布団から出た。
眠っている篠原は無防備で、さらりと顔にかかっている髪が普段の会社で見る姿とは違い、微笑ましかった。
すみれは靴を履いて、朝の街を歩いてみる。
旅行の時に、朝早くその街を歩くのがすみれは好きだった。
朝焼けの中、すん…とした雰囲気の街は、いつも清浄でなにも始まっていない。
その感じが好きなのだ。
今日は少しだけ朝靄のある中、昨日篠原に案内してもらった川の方に行ってみようと思う。
──本当に、綺麗な街…。
朝日に照らされた山の稜線がくっきりと見えた。
昨日、篠原が言った通りだ。
橋の上で足を止めて、その欄干から景色を楽しむ。
綺麗だなあ…としばらく見ていて、また歩き出した。
「すみれちゃん…!!」
篠原の声だ。
「こう…」
洸希さん、そう呼ぼうとしたすみれの声は、すみれをぎゅっと抱きしめる篠原の肩に吸い込まれた。
「びっくりした。朝起きたらいなくて…。どこかに行ってしまったのかと…」
縋るようなその声に、すみれは驚く。
「どこにも行かないですよ。お散歩していただけ。」
「お願いです。俺の側に、いて…。」
「しの…はらさん…?」
「ずっと、好きだったんです。ずっと、目で追ってた。見てたんです。すみれさんの事。こんなことして、俺は卑怯だけど…、お願いです。嫌いにならないで欲しい…。」
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