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「こっちこそ、ごめんね。」
柔らかそうな髪をかきあげて、篠原は腕の中のすみれに笑いかけた。
彼のことは、同期の間でも時折、話題になるので知ってはいた。
曰く、イケメンで学歴もあり、将来有望。
同じ部署で働けるなんて羨ましい。
すみれだって、その姿はもちろん目にしている。
確かに、篠原は整ったとても綺麗な容貌をしていた。
上司や先輩には可愛がられて、後輩の面倒見もいい。
社内には、彼女らしき人はいないとのことだ。
いればとっくに噂になっているだろう。
すみれからしてみれば、そもそも手が届くような人だとも思っていないので、完璧な人って、いるんだなーという目で見ることしか出来ないような人だった。
ぎゅっと抱かれて、思いの外、力強いその腕に驚いて心臓がどくんと音をたてて、跳ねる。
「篠原…さん…」
「あ、もう、大丈夫かな?」
「は…い。大丈夫です。」
今までチームが違うので、あまり接点もなかったから、直接こんな風に言葉を交わすのはほとんど初めてだと思う。
大丈夫、と返事をしたすみれは、そっと篠原の腕から離れる。
「さっき、葉山さんが資料室に入って行ったのが見えたんだけど、全然出てこないから、心配になって。つい、入ってきちゃった。」
そう言って笑う篠原は、確かに皆が言う通り、魅力的で素敵だ。
「つい、…夢中になってしまって。」
「うん。集中していたね。ごめんね、急に声を掛けて。」
今は社内にいるせいか、スーツではあるけれど、ジャケットは着ていなくてシャツ姿だ。
首から下げた社員IDを胸ポケットに入れて、すっきりと立っている姿はスタイルがいいんだなとつい、見とれそうになる。
柔らかい話し方は、すみれも怯えたり萎縮しなくて済んで、きっと優しくていい人なんだろうなとすみれは思った。
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