1.夏休み

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1.夏休み

ビルの前の道路は、春には桜並木が綺麗なのだが、その桜もすっかり散ってしまっている。今の時期は、元気に緑を茂らせている木々が連なって見えるだけだ。 都心にいてもなかなか季節を感じられない、と言うけれど、こんなことでも季節は感じられるんだけど…、と窓からその緑を見て、葉山すみれは思った。 「夏休みは各自適宜取って欲しい。人事からも、強く言われているから。」 葉山すみれは、自分の席のメールからその通達を確認して、プリントアウトし担当しているグループ内の名簿とカレンダーを添付した。 『お休みの申告をお願いします。』 先程プリントアウトした、通達も付ける。 働き方改革などと言われてはいても、現場とはなかなかマッチしない内容だとみんな思っているだろう。 けれど国の方針であり、今いるここが企業である以上そこに逆らうことは出来ない。 ぶつくさ言いながらも、対応はするはずだ。 すみれがいるのは、総合商社だ。 すみれはその本社に勤めているいわゆるOLである。 業務内容は営業事務。 資料を用意したり、データを入力したり、外訪で走り回る営業さんを補佐するのが仕事だ。 すみれの所属している本社第二営業部は、本社の中でも名前のごとく2番目の部署になる。 それなりに客先も大きく、営業は皆忙しい。 20名ほどの営業チームに、事務チームは女子3名だ。 どうしても業務は忙しくなりがちだし、皆手伝って欲しい時期は重なったりもする。 その中で、極力不公平のないように配慮しながら、手伝うのがすみれ達の仕事でもある。 営業事務とは言っても商社のせいか、すみれと同じチームの女子は華やかだ。 その日は朝礼で夏休みの申告を早めにするように、と課長からの通達があった。 営業社員が出払った頃、事務チームの女子は集まってお休みについての確認をすることにした。 すみれ以外の2人はいつにするかで、盛り上がっている。
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