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4.コーヒー
そして、当日、車で迎えに来てくれた篠原は、普段会社では見たことがない、私服姿だった。
それはそうよね。
けれどラフなその姿にも、すみれの鼓動は大きく音を立ててしまう。
カジュアルなシャツと、シンプルなパンツ。
首を傾げて、車の横に立っている。
その姿さえも様になっているから。
「葉山さん。すみません。せっかくのお休みを。」
とても、爽やかな笑顔だ。
「いいえ。どのみち、予定はなかったですから。お迎えに来て頂いて、ありがとうございます。」
「無理なお願いをしてしまったのは、こちらですから。」
どうぞ、と篠原は自分の車の後部座席を開けてくれたり、すみれの荷物を乗せてくれたりする。篠原はとてもマメな性格のようだ。
車に乗ってからも、狭くないですか?とか、暑いとか寒いとかあったら、言ってくださいねととても優しい。
「結構時間かかりますけど、大丈夫ですか?」
「はい。」
すみれの今までの彼は、車を運転する人ではなかった。だから、すみれは男性の運転する車の横に乗った経験があまりなかったのだ。
どうしたって目の端に入るハンドルを握る篠原のその姿は、とても新鮮でどきどきする。
少し経って篠原は、んっ…と軽く咳払いをした。
「のど、乾きました?あ、私、実はコーヒー入れてきたんです。」
すみれはコーヒーが好きだ。
自分で家で入れる時は、豆にも、入れ方にも拘って入れている。
今日は、予め時間がかかりそうだと思ったので、自分で入れたコーヒーを小さなポットに入れて持ってきていた。
ちょうど信号で止まった篠原は、嬉しそうな笑顔をすみれに向けた。
「本当は違うんですけど…でも、葉山さんのコーヒー、嬉しいです。」
そう、本当は篠原が運転している姿を、すみれがあまりにじっと見てくるので、篠原は照れてしまったのだ。
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