香川恵里

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香川恵里

今日はやっと義明君とデート! その日土曜日、るんるん気分で香川恵里(25)は身支度をしている。義明は、自社に勤める長身24歳イケメン社員。社員数56名、内独身女性14名からは羨望の眼差しで見られており、上は46、下は23歳の中で密かな争奪戦が行われていた。時に色香、時にぶりっ子、時にドジっ子、時にツンデレと女子社員達は様々な手口を使い、義明をモノにしようと権謀権術が日々社内で繰り広げられていた。全くその能力、仕事に生かせと男子社員は思う。外野からすれば、バレバレな行動である。その中で、香川恵里は、義明がスィーツ好きで、休日美味しそうな店を探し回っていることを他の男子社員から聞きつけた。その男子社員には情報提供料として夜、飲みに付き合う約束をしたが、適当な理由で断るつもりだ。香川恵里は早速、義明に迫り、「今度、田舎から来る友達にモンブランの美味しい店へ連れて行きたいんだけど~義明君、いい店知らない?お礼するからさ❤」「あっ、それなら恵比寿にいい店ありますよ、メモ書きします。」「あ~ごめん!わたし~方向音痴で~直接案内してくれたら助かる~」メモで済まされたらたまらない。渋る義明を説き伏せ、香川恵里はデート(?)にこぎ着けた。(義明的には只の道案内に過ぎない。) 待ち合わせはJR恵比寿駅北口改札前に9時30分。香川恵里は、念入りに選んだ勝負下着、勝負服、作った顔でデートに挑む。『私は負けない!』前日のことである。「恵里さん、あなた美術に興味があると言ってたわね、明日までの招待券があるんだけど行ってみる?」上司であり、義明を狙っている佐和子主任(46独身)から声が掛かった。香川恵里は体をくねらせ上目遣い気味に「ごめんなさ~い。明日~義明君と~デートなんですぅ~」と断った。あの時、主任の形相と言ったら・・思わず吹き出しそうになる自分をこらえる。『そろそろ出掛けようかな・・』室内の時計をチラリと一別すると、時間の余裕はかなりある。先に到着してからのイメージは万全だ。「ごめん、恵里さん、待たせた?」「ううん、大丈夫、私も今来たとこだから♥」言ってみたい!こてこてだけど、言ってみたい!義明だから言ってみたい‼『ああ!鼻血でそう・・』イメージだけで香川恵里はぞくぞくした。『そう言えば、外は寒いか。』季節は秋から冬に掛かっており、肌寒い。長めのマフラーを首に巻きワンルームマンションを出て、JR山手線大崎駅に向かう。 どういうことなのよ! 香川恵里は焦っている。部屋の時計が遅れていたため、40分ロスしていた。途中寄ったコンビニで時間がずれていることに気付く。まさかと思いスマホの時計を見ると、コンビニの時計は間違っていない。買い物どころではなく、香川恵里は血相をかえコンビニを後にする。『まだギリギリかも!』今、9時20分だ。五反田、目黒、恵比寿駅、目的地恵比寿まで3駅。一駅2分として・・行ける!香川恵里は猛ダッシュで大崎駅に到着すると、人をはね除けながら改札に付きパスモをタッチする。するとチャージしてくださいと音声が出てブロックされた。「ファーック!」大声で叫ぶと直ぐに券売機へ向かい、チャージを済ませ、改札へ。自然、香川恵里に視線が集まる。改札機に思いきりパスモを叩きつけて通り抜けると、エスカレーターを駆け下り、発車寸前の山手線に香川恵里は駆け込んだ。マフラーをドアに挟んで。時刻は9時25分。待ち合わせ時間9時30分には間に合わない。
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