19. 父

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その笑い声が、恭ちゃんのトーンとは全く違っていてゾッとする。 ――「望まれない子なんかじゃない。みんなが萩山の子を手放しで喜んでいる。萩山の家族も、兄も…」 ――「…こんなの間違ってる。俺は代表に全て話す」 ――「兄が真実を知ったらアナタどうなると思う?」 ――「どうなってもいい。何か一つだけしか選べないなら、俺は真白を選ぶ」 ――「まだ、そんなこと言ってるの?兄には話させないわよ!」 萩山麗美の声のトーンが変わる。 ――「アナタの選択一つで天宮真白がまた罰を受けるかもしれない」 ――「真白をホームから突き落としたこと認めるんだな?」 ――「私はなにもしてないッ!偶然よ!だけど天罰だと言ってるでしょ!?」 萩山麗美の息が荒くなる。 ――「いい!?兄に話したら、次はもっと酷いことになるかもしれないからッ……んっ」 ガタガタガタッ、、、 何かが崩れる音。 ――「いっ…痛……」 ――「麗美さん…?」 ――「痛…いっっ……お腹が…ッ」 ドアの閉開音。 ガチャガチャした動作音。 ――「誰か来てくれッ」 恭ちゃんの声や、他のスタッフの声の中に、苦しむ萩山麗美の声も聞こえる。 ――「麗美さんどうしたんですか!?」 女性の声。 ――「いたっ…!…お腹が……助けて!!」 ――「麗美さん!?」 ――「…たすけてッ…墨君!赤ちゃんがどうにかなったらたえられないっ!」 苦しみの中、泣き叫ぶ萩山麗美の声。 ――「救急車、救急車呼びましょう!店長救急車呼びます!」 ――「麗美さん!!大丈夫です!すぐ救急車来ますから!」 ――「墨君助けてッッ!墨君、どこ!?赤ちゃんがっ…私の赤ちゃんッ、墨君ッ…助けて…」 泣き叫びながら恭ちゃんを呼んでいる。 ――「赤ちゃんがッ!痛いッ…あぁーッ」 パニック状態は数分収められていて、女性従業員が懸命に麗美さんを励ましている声や、慌ただしく動く音が入っている。 近付いてくる救急車のサイレン音。 救急隊員が駆けつけると更に騒がしくなる。 ――「付き添いをどなたかお願いします」 ――「鮫島、頼む!」 ――「イやッ、イやッ!墨君ッ!離さないでっっ」 萩山麗美の大パニックで、従業員達が困惑し、恭ちゃんが救急車に乗り込む様子も音で何となくわかった。 ――「細川!スマホ取ってくれッ」 ――「急いでください」 ――「真白に、真白に連絡してくれ」 そんな会話も聞こえた。 救急車の中で、恭ちゃんの声はほとんど聞こえなくて、萩山麗美の泣き声や救急隊員の会話が何となく聞こえる。 録音は、病院に到着してから暫くして止まった感じだった。 音で全ての想像は出来ない。 でも、当日の様子が何となく掴めた。 食い入るように聞いて、終わったらクタクタになっていた。 パソコンの前で動けずにいると、突然ガチャガチャと音がして、身体がビクッとなった。 その音は玄関から。 恭ちゃんが帰宅した。
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