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夜、一人で洗濯物を畳んでいると、テーブルに置いていたスマホが振動した。
着信相手は母。
「もしもし?」
電話を取った。
『真白、お願いがあるのよ』
母が私にお願い事なんて珍しい。
「どしたの?」
スマホを耳と肩で挟んで通話しながら、洗濯物畳みを続ける。
『週末の響ちゃんの結婚式、代理で出席してくれない?』
「えっ?なんで?」
聞けば、母は姉の体調が悪くて付き添っているらしい。
父一人で参列させるのは心許ないから、私に話が振られているようだ。
「まだ結婚式まで4日あるよ?お姉ちゃんそんなに悪いの?」
『風邪こじらせてちょっと辛そうなのよ。直樹さん、仕事で福岡に来週まで出張らしくて、一人にするのも可哀想なくらい体調悪いのよ』
それは心配だ。
普段健康な人が風邪を拗らせたら、辛いのだろう。
「北海道だよね…?」
『そうよ。土曜日に宿泊して日曜日結婚式。日曜日の夜もホテル予約してるから、仕事の都合がつくようならゆっくりして来て?』
「う~ん」
『墨君にも一回聞いてみて?』
「恭ちゃんは行ったらいいよって言ってくれると思う。ちょっと会社にも休めるか聞いてみる」
『ごめんね。お願いね』
そう会話して、電話を切った。
スマホをテーブルに置いて、洗濯物を畳み終え、立ち上がってクローゼットを開ける。
私のバックから、スケジュール帳を取り出して中を確認する。
多分仕事は大丈夫。
スケジュール帳を見て、恭ちゃんの出張のことも思い出した。
「多分…大丈夫かな…」
とりあえず自分で確認はしたものの、当人達に確認を取らなくてはいけない。
壁時計を見ると23時を回っていた。
ガチャガチャと玄関から音が聞こえて、私はリビングから玄関を覗く。
「ただいま」
恭ちゃんが帰ってきた。
「おかえり」
リビングの扉から短い廊下の先にある玄関の恭ちゃんに声を掛けてから、キッチンのお味噌汁の鍋に火をかける。
「すぐ食べるよね?」
「おぉ、ありがとう」
リビングまでの途中で、洗面所に立ち寄りうがい手洗いする恭ちゃん。
シンクに置いていた恭ちゃんの夕食のおかずがのったお皿を電子レンジに入れて温める。
「あのね、お姉ちゃんが体調悪くしてるみたいで」
「瑠璃さん?どうしたの?」
「風邪こじらせたって」
トレーにごはんとお味噌汁をよそい、温めたおかずのお皿と一緒にお箸やお茶を注いだコップをセットする。
「風邪こじらせたの?大変だな」
洗面所から恭ちゃんがリビングにやってきた。
上着を脱ぎながら、
「あっ、サンキュー」
恭ちゃんが、私の用意した夕食を見て礼を言う。
上着や鞄をクローゼットに仕舞い、恭ちゃんはテーブルに着く。
トレーを恭ちゃんの前に置き、私もテーブルに着いた。
恭ちゃんは、しっかり手を合わせて、
「いただきます!うっまそー!」
と、食事を始めた。
「それでね、週末の響ちゃんの結婚式…」
「あぁ~…従姉の?」
お味噌汁をすすりながら恭ちゃんは話を聞いてくれる。
「そうそう。お母さんの代わりに私が出席出来ないかって…」
「…どこまで?」
「リゾートウェディングで、北海道らしいの。土・日・月の2泊3日」
「この週末?」
食事をする手を止める恭ちゃん。
「そう」
「いいじゃん!行っておいでよ。俺も日・月で出張だし」
「いいの?」
「あっ、でも…」
恭ちゃんはそう言って立ち上がり、クローゼットを開けて鞄から書類を出してこちらに戻ってきた。
私にそれを渡して、食事を再開する。
私はその書類に目を通す。
マンション物件の資料だった。
「月曜の夜、内覧出来るように予約して来ちゃった」
「夜なら大丈夫だと思う。帰ってくるから」
この数週間で、恭ちゃんは言葉にした通り、忙しい中率先して新居を探してくれていた。
物件の資料に目を通す。
3件に絞られた物件は全て14万弱の物件。
「ねぇ、恭ちゃん。今より6万も家賃上がっちゃうよ?」
「うん。これなんか良くない?山手線徒歩3分、メトロにも徒歩10分」
恭ちゃんは夕食を食べながらイチオシ物件を指差す。
「6万だよ?」
「大丈夫だよ。家賃は俺が持つって言ったじゃん」
「いや、それはダメ!ちゃんと私も出すから」
「それなら真白は今まで通り!差額は俺が出すから」
「でも…」
夫婦でもない私が、恭ちゃんにそんなことさせていいのかわからない。
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