2. 発覚1週間前

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「いいんじゃない?払うって言ってくれてるんだから」 九条先生がコーヒーを飲みながら、デスクの椅子に深く腰掛けて言った。 「俺もいいと思いますよ」 アルバイトの三井透君も私のデスクの前のデスクにに着いたままこちらを見て言った。 三井君は私の7つ下の大学生。 恭ちゃんのことをちょっと話してみたら、二人とも同じ意見で驚いた。 「俺なんて、先月まで付き合ってた彼女、家賃も食費も何も貰わずに半年間住まわせてあげてたよ」 九条先生が言う。 九条先生は仕事の出来る人だし、弁護士としては素晴らしいのだけど、実生活では理解に苦しむことが多い。 私に害はないのだけど。 「天宮さん、男は彼女に出してあげたいって思うんですよ。俺、彼女にいつもファミレス奢りますよ?」 三井君が的はずれなことを言う。 「ファミレスと家賃は違うでしょ?」 書類を綴じながら私は相談相手を間違えたと思った。 「でもさ、彼氏がまだ下積みだった時、天宮さんが生活支えてたでしょ?」 九条先生が回転チェアで軽く回りながら言った。 「それは、三井君のファミレスを奢る感覚ですよ」 「いいや、違う。美容師はファッション代がかかるからって家賃以外の生活費を支えてた」 「よく覚えてますね…」 そんなこともあったけど、僅か1年くらいの期間だけだった。 「彼氏が出世して払ってくれるって言うんだから払わせてあげなよ。甲斐性があるってとこ見せたいんだよ」 「そうっすよ。そんだけ世話になってたのに天宮さんがそんな遠慮したら、彼氏さんやるせないっすよ」 二人にそう言われてそんなものなのかと理解する。 「しかし、偉いよね。5年も一緒に同じ人間と暮らせるなんて。天宮さんって凄い」 九条先生が感心する。 九条先生はバツ2で、そのどちらとも1年足らずで離婚している。 そして結婚に至らず付き合った彼女とも長く続かない。 「凄くないです。普通です。先生もご家族と住まわれてたことありますよね?」 私がそう問い掛けると、九条先生は肩をすくめた。 「あっ、先生。月曜日お休み頂いてもいいですか?」 「月曜日?三井君来てくれる日だっけ?」 私と三井君は同時に「はい」と返事をした。 「じゃ、いいよ。用事?」 九条先生は快諾してくれた。 「従姉の結婚式に急遽参列することになって…」 「へぇ!平日に?」 「あっ、結婚式は日曜日なんですけど、北海道であるので…」 「北海道!?」 九条先生と三井君が声を上げて私を見た。 こんなに食い付きがいいとは思わずに驚く。 「お、お土産リクエストありますか?」 「蟹!」 「雲丹!」
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