2. 発覚1週間前

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飲み会の帰り、最寄り駅に着き、ほろ酔いで改札を出ると、恭ちゃんの姿があった。 「恭ちゃん?」 駅の柱にもたれて、恭ちゃんが私の呼び掛けにこちらを見る。 「おかえり」 優しい笑顔で迎えてくれた。 「どうしたの?」 「今から渋谷出るってLINEくれてたから、俺も帰る時間ほぼ一緒だったから出待ちしてた」 そう言われて嬉しくなって彼の腕を取った。 「久米っちどうだった?」 「うん…。やつれてたけど、思ったよりはしっかりしてて、頑張ってる様子だった」 「そうか」 恭ちゃんと手を繋いで、自宅への帰り道を歩く。 「逃げた相手、大学生の子だったんだって。教育実習生だったみたい」 「そっか…」 「年の離れた相手、ましてや相手は学生で…めちゃくちゃだよね…」 「そうだな…」 恭ちゃんの返す言葉が、心ここにあらずな気がして、彼を見上げる。 「恭ちゃん?」 「うん?」 「疲れてる?」 「そんなことないよ」 いつもの優しい笑顔を見せてくれた。 「真白、北海道行く準備出来てるの?」 「あっ、それはまだ…」 全く手付かず。 「早くしないと」 「うん…今晩す、る」 私の言葉に恭ちゃんは笑った。 時計を見て、恭ちゃんはもうすぐ“今日”が終わることを教えてくれた。 「恭ちゃんは出張の準備した?」 「してねぇ~」 「一緒じゃーん!」 二人で笑いながら、手を繋いで歩いた。 恭ちゃんの手は、万年荒れていて、カサカサする。 出会った頃はもっとカサカサで痛々しかったけれど、スタイリストになってからは随分回復した。 それでもまだカサカサな手は、仕事を頑張っている手。 私は恭ちゃんの手が大好きだった。
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