2. 発覚1週間前

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土曜日の午前中、恭ちゃんは出勤前に仕事を調整してわざわざ羽田空港まで送ってくれた。 「おはようございます!」 父と待ち合わせした場所で、ベンチ椅子で新聞を読む父を見つけて元気に挨拶する恭ちゃん。 「あぁ、おはよう」 父は新聞を畳む。 「お父さん、お姉ちゃんの様子どう?」 「あぁ、まぁ、辛そうだな…」 「そっか…大丈夫かな…」 「母さんが着いてるから大丈夫だろ」 父のトーンはいつも一定で落ち着いている。 これは通常運転。 これでもやり手の弁護士らしい。 父は時計を見て、ジャケットの内ポケットから搭乗券を出して私に一枚渡す。 私はそれを見た。 「ファーストクラス!?」 私の驚きの声に、恭ちゃんも搭乗券を覗き見する。 「母さんと二人で行く予定だったからな」 なるほど、夫婦二人で行く予定だったからファーストクラス。 「すげぇじゃん!ファーストクラスとか乗ったことない!」 「私もないよ…」 「帰って来たら詳しく聞かせて!」 乗らない恭ちゃんが一番はしゃいでる…。 「よし、行くか」 父は立ち上がり、横に置いていたキャリーバッグの持ち手に手をやった。 恭ちゃんは私のキャリーバッグを引いて私に渡す。 「ありがとう」 「気をつけてな」 「恭ちゃんも、出張気をつけて行ってきてね」 そう会話して頷く恭ちゃん。 「真白さんのこと、お願いします!」 父にそう声を掛けた恭ちゃんを、父はチラリと見た。 「私の娘だから、君にお願いされる筋合いはない」 淡々とした口調で言うけれど、割りとパンチのあるセリフ。 「お父さん!」 「行くぞ」 父はキャリーバッグを引いて歩き出す。 私は恭ちゃんの方を見て、両手を合わせて謝った。 恭ちゃんは大丈夫だと優しい笑顔で私の頭を撫でた。 「いってらっしゃい」 「行ってきます!」 ニッと笑って、キャリーバッグを引き、父を追いかけた。 振り返ると恭ちゃんが手を振ってくれる。 私も手を振った。 そして前を見て父の横に追い付く。 「お父さん、酷くない?」 「配偶者でもない男にお願いされてもな」 父は前に進みながらそう言った。 「同棲なんて長く続けるものでもないだろ」 「5年前に結婚反対したのはお父さんとお母さんだからね」 「5年前と今とでは、話が違う」 あぁ言えばこう言う。 「ねぇ!初めての父娘旅行なんだから、不機嫌はやめてね?」 父は返事をしなかったけれど、それ以降は不満を漏らさなかった。
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