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白い大理石で造られたチャペルには、中央に真っ赤な絨毯が敷かれて真っ直ぐにのびていた。
純白のウェディングドレスの花嫁がベールに包まれ、花嫁の父のエスコートで、今、花婿の元へと向かう。
花婿は、緊張した面持ちで迎える花嫁を牧師台の前で待っていた。
花婿の背には、ステンドグラス。
ステンドグラスを通した外の光が、祝福するかのように照らす。
聖歌隊のアベ・マリアの歌声。
響くパイプオルガンの音色。
私は息を飲んでその場面を見守っていた。
花嫁と花嫁の父が通りすぎた。
そして、花婿へと娘を託す花嫁の父。
花嫁の父と固い握手をした花婿は、花嫁をエスコートし、牧師台の前に二人で上がる。
今から、この場にいる全ての人が、二人の誓いを見届ける。
ー讃美歌の合唱がはじまったタイミングだった。
ガシャンッ……
後ろの扉が勢いよく開き、皆が振り返った。
開いた扉のど真ん中に一人の男性のシルエット。
息を切らせた男性は中に入ってくる。
結婚式には似つかないラフな姿だった。
「ユリ!」
男が呼ぶその名前は、花嫁の名前。
会場スタッフが男をチャペルから出そうと掴もうとするも、その男は振り切って土足でバージンロードを走り、牧師台前へ。
チャペル内がざわつく。
そして花嫁の腕を掴んだ。
「たっくん…」
花嫁がその男の名前を呟いた。
「おい!何してる!?」
花婿が男に問い掛けるも、その男は花嫁を連れて走り出した。
「おいっ!」
花婿が花嫁のベールを掴んだけれど、そのベールはあっけなく外れる。
「…ごめんなさいッ!」
花嫁はその言葉だけを残して、男とバージンロードを走り抜けて出ていく。
「だ、誰か!つ、捕まえろっ!!」
参列の誰かの声で、そこに居た数名の参列者とスタッフが男と花嫁を追う。
「何?どういうこと?」
「えっ?」
「演出?」
「バカ、そんなわけないじゃん。挙式中だよ?」
「えっ?」
チャペル内はざわつき、さっきまでの厳かな雰囲気は一瞬でなくなった。
牧師台の前で、呆然と佇む花婿の足元に、花嫁が残したブーケが落ちていた。
花婿は手にベールを掴んだまま、動かなかった。
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