2. 発覚1週間前

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ー北海道 天気は晴れ。 それでもやっぱり東京より寒くて、持ってきたダウンコートを着た。 用意されていた部屋はスイートルームだった。 「ファーストクラスに、スイートルーム…人の結婚式で浮かれすぎてない?」 部屋の窓から見える広大な景色を見ながら、父に言った。 「ここのホテルは全室スイートルームだ。響ちゃん達が用意してくれたんだ」 父はそう言いながら、持って来た礼服をクローゼットにしまっていた。 私もそれを見て、キャリーバッグからドレスを出す。 「あっ、母さんがこっちにお前の着物を送っているはずだ」 「着物?」 「そう。それで参列するようにって」 父は部屋の電話を取って、フロントに荷物の確認をする。 「ちゃんと到着していて、預かってくれてるらしいから」 フロントに確認した父が私に伝えてくれる。 なんてことでしょう… 「まさか振袖?」 「あぁ、二十歳の時に作った着物だ」 「振袖じゃん」 「こんなことでもないと着ないだろ?いくらしたと思ってるんだって言いながら用意してたぞ」 …やられた。 「着付けもへアセットも予約してあるらしいから」 父はそう言いながら、バックから出した手帳に挟んでいた紙切れを私に渡す。 《へアセット・着付け11時30分 予約済み》 母の字で、絶対に着ろと言わんばかりの簡潔な内容。 溜め息をつく私に、父は苦笑い。 母の代理だから仕方ないか…。 「ねぇ、響ちゃん達には今日会えるのかな?」 「どうだろうなぁ…本人達は忙しいだろうし。夕食は葉山一家に呼ばれてるから、そこに顔を出すんじゃないか?」 葉山一家とは、叔母一家。 「そっかぁ…花嫁さんは大忙しだよね」 「東京のホテルでした瑠璃達の時も大変だったから、こんな離れた場所ってなると、もっと大変だろうに…」 父はそう言いながらバックから書籍を出して、ソファに腰掛けた。 これは、いつものスタイルだ。 読書タイムがスタートする。 「せっかくリゾート地に来たのに読書?」 呆れる私。 私はスマホを出して部屋の写真を撮る。 一面窓の横に大きな引き戸。 開けてみて驚いた。 大きなジャグジー風呂とその向こうに絶景。 「お父さん!ジャグジーがある!!」 「うん…」 もうダメだ。 本の世界へ行ってしまった。 私はジャグジー風呂を写メして、LINEで恭ちゃんに送った。 《恭ちゃんと一緒だったら良かったのに…》 と言葉を添えて。
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