3. 発覚

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夕方になる前に、自宅に戻れた。 父のタクシーに便乗して、近くまで乗せて貰うつもりが、がっつり自宅前まで送って貰ってしまった。 タクシーを降り、 「お父さん、お茶でもいかが?」 なんて社交辞令的に誘ってみた。 「半分はあの男の家だろ?」 「いや、そうだけど」 「遠慮しとく」 それ以上は誘わなかった。 「お疲れ様でした」 運転手さんにキャリーバッグをトランクから出して貰い、タクシーを見送った。 思わず溜め息が出た。 ハイツの階段から、誰か勢いよく降りてくる足音が聞こえた。 ふと見ると、恭ちゃんだった。 「恭ちゃん!ただいま!」 「あっ、お父さん帰ったの?」 私のところに駆け寄る。 「うん、帰ったよ」 「お茶でもって思ったんだけど」 聞けば私の帰りを待ち、窓の外を見てたら、タクシーが止まったから慌てて出てきたらしい。 優しすぎる…。 胸がキュンとした。 なのに、あの頑固親父…。 「お茶でもって誘えば良かったのに」 恭ちゃんの言葉に私は頷いた。 「ありがとう。でも、お父さんも疲れてると思うし、早く帰りたそうだったから」 さっきの事実は伝えない。 恭ちゃんは私の荷物を持ってくれた。 「凄いデカイ袋だな」 キャリーバッグの上に鎮座するお土産袋を見て、恭ちゃんは笑った。 「恭ちゃんと食べたいものいっぱい見つけて」 「マジか。楽しみ、何あるの?」 「スープカレーがね2種類でしょ、それから…」 恭ちゃんと手を繋いで、自宅に戻る。 恭ちゃんはいつもの恭ちゃんだった。 電話があんまり好きじゃないから、きっと、それで元気なく感じたんだと思った。
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