3. 発覚

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夕方、恭ちゃんと私は予定通り、物件の内覧をしに出掛けた。 3つの物件を見回り、一番最後に見に行った物件が、恭ちゃんイチオシの物件だった。 築年数の浅い、2LDKのそのマンションは、今のハイツよりずっと広くて綺麗。 「こちらはデザイナーズマンションで大変人気の物件でございます。広さも十分ございますし、近隣は閑静な住宅街で幼稚園や小学校もちこうございますので、将来的にもよろしいかと…」 11月なのに物凄く日焼けしている営業マンの男性、黒田さんが笑顔で説明する。 角部屋で窓が沢山あるこの部屋は、日中明るいだろうと想像できた。 お風呂を覗くと、今の倍あるような気もする広さ。 「恭ちゃん!お風呂広いよ!」 私がそう声を上げると、恭ちゃんは嬉しそうに頷いた。 「浴室乾燥機付きでミストサウナも楽しんでいただけます。タイルは冷たくないタイルを採用してます」 黒田さんがすかさず説明に入ってくる。 私はリビングに移る。 細長いリビングの奥にあるキッチンを覗く。 「キッチンはシステムキッチンで3口のガスコンロ。お料理がお好きと伺いましたので、存分に腕をふるっていただけます」 すかさず解説する営業マンの圧がすごい。 「ねぇ、恭ちゃん。私が見せて貰ってた物件の書類と違う気がするんだけど」 「1件差し替えたんだ。一番気になったマンションだったから。予算が少し上で迷って…」 恭ちゃんにそう言われて納得した。 「ここはやめよう。予算オーバーはダメだよ」 私がそう言うと、恭ちゃんは黒田さんにことわりを入れて、リビングの隣の洋室に私を引っ張った。 「どうしたの?」 「値段関係なくさ、真白はここどう思う?」 「えっ?値段関係なくとか考えられない。毎月払わなきゃならないんだよ?恭ちゃん、予算オーバーはダメ!ここはなし」 私がそう言い切って、黒田さんに断ろうと部屋を出ようとすると、恭ちゃんが私の手をもう一度掴んで止めた。 「今日見た物件の中で、真白、一番楽しそうに見えるんだけど?」 「そりゃぁ、広いし綺麗だし、駅も近いし、お風呂も広いし……」 「だったら、ここにしよ?」 恭ちゃんはそう言うけど、予算オーバーは致命傷だ。 「予算オーバーはダメ!私のお給料だって上がる予定もないし」 「来月から代官山の店長になる」 恭ちゃんが突然発表した。 私は驚いて目を丸くする。 「それだけじゃない。代表の下に着かせて貰って経営にも参加することになった。来春には幹部になる」 続けての発表に、息が止まる。 今のサロンは、代表取締役社長の新城代表が立ち上げた会社。 学校の大先輩で、在学当時から恭ちゃんは新城代表に憧れていた。 そこに入って、ずっとずっと努力してきた。 まさか、こんなにも早くその憧れの人の側まで駆け上がるなんて… 並大抵の努力じゃなかったはずだ。 「真白?」 「お、お、おめでとう…」 やっとの思いでお祝いの気持ちを伝える。 「良かったね…凄い…凄いよ!恭ちゃん!!」 思わず胸が熱くなった。 知ってるから…誰より努力してきた姿を… 「真白、泣いてんの?」
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