3. 発覚

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恭ちゃんの仕事関係の人は、みんな洗練されている。 美容関係だから、みんな流行やオシャレに敏感なんだと思うけど… こんな綺麗な人達に囲まれて、恭ちゃんは私で満足しているのだろうかと心配になる。 恭ちゃんの仕事場に行くと、なぜかマイナス思考になる自分が居るから出来るだけ近付かないでいた。 今回ばかりは仕方ないけれど。 「こちらでお待ち下さい」 オフィスの入り口すぐにあるソファをキラキラ女子に勧められた。 「あ、ありがとうございます」 「担当の者がすぐお持ちしますので」 「はい」 キラキラ女子は綺麗にお辞儀をして去っていく。 フェロモンが凄い。 多分二十代前半。 間もなく総務の女性が一式書類を持って現れた。 私がそれを受け取り、説明を受けていると… 「真白ちゃん?」 声を掛けられて振り返ると、新城代表だった。 「新城代表!…ご無沙汰しております」 慌てて挨拶をする。 「久々だね。元気?」 「はい。新城代表もお元気そうで…」 「元気元気。恭一郎と愛の巣を新調するんだって?」 その問い掛けに私は固まり、総務の女性はクスクス笑った。 新城代表はアラフォーで、24歳の時にこの会社を立ち上げたやり手社長だ。 「高校生だった恭一郎がうちの1号店でバイトして、そこから美容師になって、ずっと真白ちゃんが側に居たもんな」 「いえ、私は、そんな…」 「苦しい時もあったと思うけど、来月から代官山の店長任せるし、アイツには経営にも参加して貰うから」 恭ちゃんから聞いていた話を代表からまた直接聞いて、より実感する。 「少しは贅沢させて貰えよ」 新城代表は私の肩をポンポンと優しく叩いてくれた。 お茶でもと誘われたけれど、書類を不動産会社に届けないといけないからと、丁寧にお断りした。 ならばと、エレベーターまで送ってくださる。 総務の方にお礼を言って別れ、新城代表と来た通路を戻る。 「立ち上げは5人ではじまって、恭一郎がバイトで入ってきた時は従業員は30名弱。それが今は従業員140名弱になってる」 「すごいです」 「ネイルやエステの事業立ち上げて、もっとでかくしようと思ってるから」 「はい…」 「恭一郎には期待してる」 新城代表が恭ちゃんに期待と信頼を寄せて下さっているのがわかる。 「きっと、彼は尊敬する新城代表の側で努力すると思います」 私がそう伝えた時だった。 廊下の先に女性がうずくまっている姿が見えた。 「あっ…」 私は思わずに駆け出して、その女性の側に寄る。 「大丈夫ですか?」 しゃがんで女性の顔を覗くと、青白くなっていた。 汗もかいていた。 私は咄嗟にハンカチを差し出すと、 「すみません…」 彼女は消え入りそうな声でそう言ってハンカチを取り、咄嗟に口許に当てる。 「麗美?」 新城代表も駆け寄る。 “麗美”と呼ばれたその女性は、新城代表を見上げた。 「お前体調悪いのか?」 そう問い掛けられた女性は気合いで立ち上がる。 「大丈夫。ちょっと立ちくらみしただけ」 彼女はそうこたえた。 「顔色がよくない。もう帰れ」 「まだ仕事が…」 「引き継いで帰れ。あんまり遅くなると、旦那も心配するだろ?」 麗美さんはその言葉に口をつぐむ。 「少し涼しいところで休まれた方がいいと思いますよ」 あまりにも顔色が悪くて、私もそう声を掛けた。 「車出させるから、それで帰れ」 「大丈夫。自分で帰れる」 彼女はそう言って持っていたタブレットと一緒に持ったハンカチに目をやる。 「ごめんなさい…ハンカチ」 「大丈夫です。気にしないでください」 線の細い小顔のスラッとした女性。 さっきのキラキラ女子とは違って、品のある美人なお姉さんだ。 「恭一郎の彼女だよ。真白ちゃん」 その言葉に、女性が目を見開いた。 「妹の萩山麗美」 新城代表に紹介され、 「天宮真白です。宜しくお願い致します」 と、頭を下げた。 「こちらこそ、宜しくお願いします」 握手を交わす。 その手の感触で、彼女もまた美容師なんだとわかった。 恭ちゃんの手に似ていたから。
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