3. 発覚

10/11
10899人が本棚に入れています
本棚に追加
/364ページ
本部を出て、黒田さんに書類を届けた。 夕食の買い物を済ませて、自宅に帰った。 夕食の準備をしながら、さっきの新城代表の言葉を思い出す。 “恭一郎には期待している” 恭ちゃんに、教えてあげよう。 きっと喜ぶはずだ。 「あっ…お祝い…」 これは世で言う栄転と言われるものじゃないか。 そう思ったら、お祝いしなくちゃと気持ちが踊る。 カレンダーを見て、次の恭ちゃんの休みに?と思ったけれど、きっとこの日が引っ越しになる。 新居に移ってからにした方がいいか…。 そんなことを思っていると、ふと麗美さんの顔が過った。 あれ? なんで? ガチャガチャと玄関から音が聞こえて、私は廊下を覗く。 玄関が開くと、恭ちゃんの姿が見えた。 「おかえり」 「ただいま」 いつものように笑顔で迎える。 笑顔が返ってくるはずなのに、恭ちゃんの顔が固い。 「恭ちゃん?」 恭ちゃんは、靴を脱いでこちらに向かってきた。 いつもなら手洗いうがいをしてからこちらに来る。 「恭ちゃん?どうしたの?」 深刻な表情に驚く。 「本部に…行ってくれた…」 「うん。ちゃんと本部に行って書類頂いて、黒田さんに渡したよ。週末までには鍵を渡せるだろって」 私は説明をした。 火にかけていたお鍋が吹く。 慌てて火を止めて、お鍋の蓋に手をやると 「熱っ!!」 取っ手に触れた部分が火傷した。 恭ちゃんは私を引っ張って、後ろから抱き締めるみたいに、キッチン蛇口をひねり水道水で指を冷やしてくれる。 「痛い!?」 「…大丈夫」 シンクに水が跳ねる音。 恭ちゃんに包まれるみたいに後ろから抱きしめられたまま、暫く水道水で冷やし、それから火傷の薬を塗ってガーゼを巻いてくれた。 「こんな大袈裟にしなくても…」 「火傷を甘く見ちゃダメだ」 ガーゼの上から包帯まで巻く恭ちゃん。 「こんなに巻いたら、ご飯作れないよ」 リビングの地べたに二人で座り、救急箱を開いたまま包帯を巻く恭ちゃんに私は笑いながら言った。 何かいつもと違う。 「どうしたの…?恭ちゃん…」 小声で聞いてみた。 「真白、話がある。聞いて欲しい」 いつになく、真剣な表情。 何か大事な話だと、それだけはわかった。 何を聞いたって、私は恭ちゃんを嫌いになったりしない。 そんな気持ちは確かにあった。 「真白が、世界中で一番好きなんだ。それだけは信じて欲しい」 その言葉に、胸が大きく鼓動し出した。 「子供が……できた…」
/364ページ

最初のコメントを投稿しよう!