1. 発覚1ヶ月前

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「本当に気の毒だわ…。久米君はもちろん、親御さんの気持ちも考えたら…」 さっきまでラブロマンスを語っていた母が、突然神妙になる。 「まぁ、起きたことは元に戻せないから、がっつり請求した方がいいよね」 私はそう言いながら、姉が選んだおかきが美味しそうで同じものを手に取った。 「人のこと言ってないで、あなたは墨君とどうなの?」 母に問い掛けられ、二人に凝視される。 「いつまで同棲してるの?」 姉も参戦してきた。 私には10年付き合いのある1つ上の美容師の彼氏が居る。 墨恭一郎(すみきょういちろう)。 恭ちゃんと呼んでいる。 10年前にバイト先の居酒屋で出会い、先輩後輩から友人関係に発展し、4年間は清い友情関係を保った。 その後、男女として付き合い始めた。 交際1年で結婚の話が出たが、双方の親からまだ早いのではないかと言われ、何となくはじまった同棲生活はもう5年になる。 「籍入れたら?」 5年前、結婚を渋った母が私に言う。 「まぁ…そのうち?」 ポリポリおかきを食べる。 「そのうちそのうちって言って棄てられたらどうする?」 姉が皮肉っぽく言う。 「恭ちゃんはそんな酷いことしませーん」 過信してるわけではない。 恭ちゃんは昔と変わらず私のことを愛してくれている。 愛されている感はあるし、同じように私も恭ちゃんなしには生きられないくらい愛してる。 「早く結婚した方がいいよ?三十過ぎたら着られるウェディングドレスも狭まってくる」 姉は2年前、31歳で職場恋愛で結婚した。 「歳じゃないでしょ?体型とか雰囲気でしょ?」 「そうでもないんだなぁ…」 私の反論に姉は否定。 「そう言えば、響ちゃんの結婚式来月だわ」 母が思い出したように言った。 響ちゃんは、私の2つ上の従姉。 母の妹の娘さん。 歳も近いし、家も近所の為、昔はよく姉と三姉妹みたいに遊んでいた。 響ちゃんはバリバリのキャリアウーマンで、結婚の気配がないといつも叔母が嘆いていたけれど、ついに結婚することになったようだ。 「響ちゃんは何着ても似合うわよ。顔が整ってるもん」 響ちゃんも確か31のはず。 姉はさっきの話を覆す。 「結局、海外挙式やめたんだね。北海道でするんだっけ?」 姉が二つ目のお茶菓子を選びながら問い掛ける。 「二人とも仕事が忙しくて海外挙式出来る休みが取れなかったらしいのよ。ほら、響ちゃんもこっちに戻ってきたばかりだし。入籍は響ちゃんのお誕生日に済ませてるみたいだけど」 響ちゃんは神戸で勤務していたけれど、この10月に東京の本社に戻ってきた。 結婚相手が東京勤務の人で、遠距離夫婦になるからと叔母が頭を悩ませていたのはつい最近の話だ。 「なんで北海道なんだろうね?」 知る限りでは北海道に縁もゆかりもない。 「相手の人が北海道なんじゃないの?」 「違う違う。国内リゾートウェディングよ。東京で結婚式するってなったら、規模が大きくなり過ぎるとか何とかで、身内だけですることになったのよ。お相手も製薬会社勤務の研究職みたいで立派な方なのよ。ご実家は神戸で酒蔵を営んでらっしゃるらしくて、そんな繋がりを考慮したらとんでもない招待客になったみたいで…東京のホテルおさえるってなったら結婚式は先伸ばしになるしって、苦肉の策で国内リゾートウェディング」 母の説明で叔母ががっつり絡んでいることを確信した。 響ちゃんは結婚式なんてなくてもって感じのイメージがある。 仮に結婚式を望んでいたとしても、急ぐタイプでもない。 「響ちゃんも大変ね。叔母さんの張り切り具合が目に浮かぶ」 姉も同じように思ったようだ。 そしてまた姉はおかきを物色する。 「楽しみだわぁ…」 うっとりする母。 「えっ?北海道まで行くの?」 私は驚く。 「行くわよ。お父さんと二人で招待して貰ってるから」 「何日だっけ?」 姉がおかきを開けながら問い掛ける。 「11月11日」 母はカレンダーを見て答えた。 「ポッキーの日だ」 「ホントだ」
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