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近くに路駐した矢沢のワンボックスの後部座席に乗せられ、暖房マックスの車内で身体を温めた。
久米っちと矢沢は外に居て、優樹菜が私の横にピッタリと着き、肩から毛布を被せてくれて、ギュッと抱き締めてくれた。
温まるように、肩を擦ってくれる優樹菜。
運転席のナビ画面をぼんやり眺めていると、時刻は午前2時16分と表示されていた。
今日は平日で、明日も…平日のはず。
「ごめん…みんな…」
朝には仕事があるはずだ。
申し訳なくなり、思わず言葉が出た。
「みんな、仕事だよね…?」
私の問い掛けに、
「私は今日は遅番だから。矢沢は知らないけど、久米っちは仕事だね」
優樹菜がこたえた。
優樹菜は看護師をしていて、矢沢は介護施設で勤務している。
「ごめんね…」
謝る私を、優樹菜は心配そうに見つめてるのはわかるけど、目を合わせられなかった。
「真白…」
「まさか…3人が、探しに来てくれるとは思わなくて…」
「久米っちが、真白の様子がおかしいって電話があって、何回電話しても繋がらないし…」
「よくわかったね…」
「真白がいつも悩んで泣いてた場所、ここだったって思い出して…」
優樹菜がそう話したタイミングで、車の窓ガラスにノック。
スライドドアが開いた。
外の冷たい空気が入ってくる。
「温かい飲み物買ってきたから」
久米っちがそう言って、缶コーヒーを2つ差し出した。
それを受け取る優樹菜と久米っちの先に、外で煙草を吸いながら、矢沢が誰かに電話してる。
「いや、そっちじゃなくて、赤十字病院の交差点を…」
誰かにここの場所を教えていた。
…誰?
恭ちゃんだと思った。
私は、慌てて車を飛び降りて、通話中の矢沢のスマホを取った。
「おい!」
矢沢は驚いていたけど、私は画面を見て恭ちゃんの名前を確認し、電話を切る。
「天宮!?何してんだ!?」
両手で持った矢沢のスマホを、彼に返す。
「場所、教えたの?」
私は矢沢に問い掛ける。
「えっ?…教えた。墨さん、めっちゃめっちゃ心配してー」
矢沢の言葉を最後まで聞かず、私は車の座席に置いた自分の鞄に手を伸ばす。
「おい!天宮!どこ行くつもり!?」
久米っちが咄嗟に私の腕を掴んで、鞄に手が届かなかった。
優樹菜も私を心配そうな目で見つめる。
「何があったか知らないけど!喧嘩して話し合いもせずに逃げるのはよくない!」
矢沢が続けて言った。
バイト時代から、矢沢は恭ちゃんのことをすごく慕っている。
「矢沢に…関係ない…」
私は、そう言って久米っちの手も振り払った。
3人は何も知らずに私だけの心配をして探し回ってくれていたことは、わかっていた。
そんな彼らにしていい言動ではない。
だけど、今の私に余裕はなかった。
鞄を取り、逃げようとする私を矢沢が止める。
「おい!お前そんなヤツじゃないだろ!?みんな心配して真夜中に探し回ったんだよ!わかるだろ!?」
矢沢が私を掴んで言う。
「何があったか知らないけど!墨さんは100%自分が悪いって言ってた!認めてるんだから意地になって逃げんなよ!」
矢沢が声を上げるも、私は激しく抵抗した。
「今は話したくないの!会いたくない!」
「はぁ!?高校生か!?」
「矢沢には関係ないでしょ!?」
「ここまで来たらあるね!!真夜中に叩き起こされてお前のこと探しまくったんだよ!今ここで、はいそうですかって逃がすわけねぇだろ!?」
矢沢がキレる意味もわかる。
だけど、どうしてもー
「今は絶対に会いたくないッ!!会えないッ!!離してッ!!」
自分よりも30センチ背の高い大柄の矢沢に、私が敵うはずもない。
だけど、必死で抵抗した。
「離してッッッ!!」
パニックみたいになる私を見た優樹菜は、
「わかった!わかったから!!ー矢沢!真白を車に乗せてここを離れよう!」
そう声を上げて提案した。
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