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夕方、引出物と母が包んでくれたおかずを持って、私は恭ちゃんと住む家に戻った。
帰りの電車の中、恭ちゃんに荷物が重いことをLINEで知らせたら、改札口を出てすぐの所で待ってくれていた。
「真白、おかえり」
笑顔で迎えてくれた恭ちゃんに、飛び込む勢いで駆け寄る。
「ただいま!」
私の両手の紙袋を、恭ちゃんは右手で全部持ってくれた。
「重っ。よくこんなの持って帰って来たな。大変だったろ?」
「大変なのは、久米っち」
「えっ?大変?」
私は恭ちゃんと手を繋ぐ。
「まぁ…話せば長くなるので、帰りながら」
そう話すと、恭ちゃんは興味津々に私を見た。
今日起きた大事件を話ながら、二人で並んで手を繋いで歩いた。
家に到着したタイミングで全てを話終える。
「なんでそんなことに?」
「さぁ?久米っちから聞いてた話では、何の問題もなかったけど、相手の話は聞いてないから…」
私は上着を脱いでハンガーに掛けながら話をした。
恭ちゃんの分の上着もハンガーに掛け、クローゼットに仕舞う。
1LDKのハイツに私と恭ちゃんは住んでいる。
10畳のリビングダイニングと7畳の寝室。
もうここに住んで5年になる。
「しかし…結婚式に花嫁が男に連れ去られるなんて、ドラマみたいだな」
恭ちゃんはキッチンで手を洗いながら言った。
クローゼットから部屋着を出して着替える私。
「現実だからシャレにならない。当日にこんなことしなくても…イヤならもっと前に言えばいい」
「言えなかったんじゃない?」
お茶を沸かそうと準備する恭ちゃんが言った言葉に、私は着替えの手を止めて彼を見る。
「恭ちゃん、彼女の肩持つの?」
「ち、違う違う!」
「していいことと、しちゃいけないことがある。結婚式の最中に男と計画的に逃げるなんて絶対しちゃダメ」
「もちろん俺も同じ意見!」
やかんを持って、恭ちゃんはそう返した。
ビックリした。
逃げた花嫁の肩を持つのかと思った。
「その花嫁も男も、これからどうするんだろな?」
やかんを火にかける恭ちゃん。
「さぁ…。今の時代駆け落ちなんて出来ないだろうし。すぐ見つかると思うよ。社会的制裁が待ってる」
部屋着に着替えた私は、胸まであるロングヘアをヘアゴムで束ねる。
そして、キッチンに居る恭ちゃんの背中にゆっくり抱き付いた、
「どうした?」
お湯が湧くのをコンロに目を向けたまま待つ恭ちゃんが、彼の背中に頬を当て抱き締める私の手を優しく撫でた。
「何もない」
何となく、人恋しくなって抱き付いた。
「真白が感情移入して、悲しむことはないよ」
彼はそう言って、私を抱き締めた。
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