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母が持たせてくれたおかずで夕食を済ませ、私は恭ちゃんと一緒にお風呂に入った。
やや狭めのセパレートタイプのお風呂場。
湯槽に二人で入ると、少しのお湯でもいっぱいになる。
彼が浴槽に入って、彼に背を向けるようにして私も入る。
「やっぱり狭いな」
「5年前から知ってるよ」
そう言って二人でクスクス笑う。
二人で入る、お風呂の時間が好き。
何だかとっても幸せに感じる。
彼に背を向けているのに、狭いお風呂場に響く彼の低い声とか、密着感とか、そんなのが私を麻痺させて素直にさせてくれる。
何でも話せてしまう。
「前から話してるけど、そろそろ引っ越さない?」
「う~ん…」
「前はさ、真白にだいぶ負担掛けてたけど、これからは俺が今までの分も返す気持ちで出したいし。もう少しいいとこに住まない?」
出逢った時はまだ恭ちゃんは美容師になりたてで、一緒に暮らしはじめた時も、私よりお給料が少なかった。
だから、私の方が生活費を多く出していたけれど、この6年で彼はチーフディレクターまでのぼりつめ、お店の副店長も任されている。
いつのタイミングでだったかはわからないけれど、私の貰っているお給料をはるかに超えているのは気付いていた。
「恭ちゃんの仕事場から少し遠いもんね…」
「いや、別に遠いのはいいんだけど。このハイツも築20年だし、風呂も狭いし」
「お風呂が狭いのは気にならない」
「まぁ、別にいいんだけど。もう少し都心に近付くとか!」
「それは便利かもね」
「だろ?」
今で不自由してるわけではない。
お隣も、階下のご近所さんもみんないい人。
古めだけど、大家さんが親切で小綺麗にしてあるし、不便もない。
だけど…恭ちゃんは違うのかもしれない。
「家捜すの大変だよ?」
後ろを振り返って彼を見た。
「俺が頑張るから」
力強くそう言う恭ちゃんの言葉が、頼もしくもある。
「…うん」
頷くと恭ちゃんは嬉しそうにガッツポーズした。
その動作でお湯が跳ねて私の顔面にお湯がかかった。
「ごめん」
素直に謝る彼。
笑ってしまう。
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