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合格は、みんなが喜んでくれた。
父は、私の合格を聞き、涙した。
それは生まれて初めて見る、父の涙だった。
姉の結婚式でも、父は泣かなかったのに…
「私も歳を取った。気が緩んだ…」
そう言った父だったけれど、その涙の衝撃は私の胸にくるものがあった。
それから暫くして、合格通知書が届いた。
そのタイミングで、私は勇気を出して、ある人物に電話を掛けた。
相手は細川君。
確信はなかったのだけど、彼とは連絡を取り合ってるような気がしていた。
万が一電話番号が変わっていても、イデアルに行けば細川君には会える。
彼は代官山店の副店長になったと風の噂で聞いていた。
お店の定休日の月曜夜に電話をかける。
まずはコールしたことにホッとした。
そして、間もなく、
『もしもし?真白さん??』
と電話に出てくれた。
どうやら、番号の変更もせずに、私のアドレスも残してくれていたみたいだ。
「…元気?細川君。突然ごめんね」
『いやいやいや、全然大丈夫です!元気ですっっ!!』
細川君は変わりなさそうだ。
「そう…良かった…」
自宅の自室。
ベッドに腰掛けて、電話をしていた。
太ももに恭ちゃんに手紙のように宛てた、ノートを乗せていた。
『どうしたんですか?何かありました??』
「うん…」
ちょっと緊張する。
「細川君……恭ちゃんの居場所、知ってる?」
意を決して聞いてみた。
細川君の一瞬の間。
それに何だか緊張が増す。
「知ってたら…教えて欲しい」
返答を待たずに、そうお願いした。
『あぁ~…』
悩むような声。
『俺も、どこに居るかは知らないんですよ』
彼はそう言った。
この返答もあり得ると思っていたけれど、思っていた以上にダメージがある。
「そっか…」
恭ちゃんは、慶次郎君とお母さんの親子間の修復と、自らは距離を取るために、お母さんにも所在は教えていなかった。
「ごめんね。こんなこと聞いて…」
『いえ、あの…俺……去年、実は、会ってるんです』
「…えっ?」
『ひょっこり現れて…元気かって…』
それは、一番近い恭ちゃんの最新情報。
『どこに居るかは、教えて貰えなくて。でも、元気にしてましたよ!!』
それだけで、胸が熱くなる。
息が詰まりそうになる。
「そう…、良かっ…た…」
泣きそうになる。
元気にしてくれていると、知れた。
どこに居るか、わからないけど…
それを知れただけでも、嬉しかった。
『真白さん…?』
「…うん、ごめん。大丈夫…」
気持ちを落ち着かせようとする。
少し間が空いて、
『真白さん…』
迷ったような声で、細川君に呼ばれる。
「ん…」
声が掠れる。
『多分、代表なら居場所、知ってると思います』
細川君は、そう教えてくれた。
『確信はありません。代表からそう聞いたわけでも、墨さんからそう聞いたわけでもないです。でも、知ってると思います』
細川君はハッキリとそう教えてくれた。
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