遊びの誘い

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遊びの誘い

午前10時。ヒロとアスカが僕の家にやってくる。僕は階下の音を気にしないように、目の前の文章問題に集中しようとした。お父さんの仏壇がある方からチーンと2回聞こえてくる。お父さんは去年の夏に交通事故で亡くなった。だから僕が、お母さんを支えなきゃいけない。鉛筆を強く握りしめ、頭に浮かんだ計算式を書き出す。ドアが勢いよく開き、勢いのいい声が飛び込んできた。 「ユウトあそぼー!」 勉強の手を止め振り返ると、意気揚々と乗り込んできたアスカが立っている。その後ろに、ふくよかなお腹のヒロ。今日も懲りずにやってきた。いつものように、軽く流して帰そう。 「今勉強してるから、また後でね」 アスカはむすっとした顔をした。 「昨日も、一昨日もそうやって遊んでくれなかったじゃん」 ついでヒロも追い打ちをかけてきた。 「そうだよー。もうアスカと二人で遊ぶのはキツイって」 「あら。それはどういう意味?」 あえて上品な口調で言ったアスカの視線は鋭くヒロを刺している。ヒロは決まり悪そうに黙りこんだ。 「私のおかげでバスケのドリブルができるようになったんだから、感謝しなさいよね」 どうやら、僕がいない間に6年生になってもドリブルができないヒロに特訓をつけていたらしい。 「誰も頼んでないんだけど……」 小声でヒロがぼやいた。 「それはさておき、ユウト今日こそは遊ぶよ! せっかく宿題のない春休みだってのに、何勉強してんのさ」 ガツガツとこちらに歩みを進め、浅黒く焼けたアスカの手が僕の腕をグッと掴んだ。 「公立の中学から、頭のいい高校に行くには今から自分で勉強しないとダメなんだよ」 手を振り払おうとしても強く掴んだ腕を離さない。 「はあ〜あんたって真面目ねぇ。いいから、い・く・よ!」 説得も虚しくアスカに強引に引っ張られ、椅子から立ち上がった。 「わかった、わかった」 僕の了承を得ると、ヒロは目を輝かせた。 「やった〜! じゃあゲームしよー」 真っ先に階下へと駆け下りていく。 「あ、ゲームは――」 言いかけた言葉は聞こえなかったのだろう。一階のリビングでは、ヒロがいつもゲームの入っているボックスの前に座り、青ざめた顔をしてこっちを見ていた。 「なんで!? ゲームはどこ?」 「いやぁ、もう遊んでる場合じゃないかなと思って、全部捨てちゃった……」 「まだ早いよ〜。勉強なんて受験生になってからでいいじゃ〜ん。ね〜アスカ」 悲しみを前面に出しているヒロとは対照的に、冷静か寧ろ嬉しそうなアスカ。 「そうね〜でも、ゲームないんじゃ仕方ない。外で遊ぼっ」 アスカは外で体を動かして遊ぶのが好きなのだ。ヒロと仲良くなるまで、僕はずっとアスカに振り回されて一日中外で遊んでいた。 「おばさん、サッカーボール借りますねー」 洗濯物を抱えた母さんの横を通り過ぎながら、アスカは玄関に向かった。 「はーい、窓割らないように気をつけてね」 「わかってまーす」 アスカはもう靴を履いて玄関を出ようとしている。呆然と悲しみに暮れているヒロはまだ動こうとしない。 「ほら、早く」 アスカはもう扉に手をかけて、こちらを見ている。
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