落ちてはいけない

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「やーどもども〜こんちわー」 後ろから声がした。仮面をつけた小さな子供がいる。 「お二方、えらい大きいなぁ。わい、ミニマス言います。よろしゅう」 ペコリと頭を下げたミニマスは小柄な見た目に似合わず、おじさんみたいな声で話す。アスカが近寄る。 「ミニマス、あなた本当に強力なスケット?」 「何を言いますねん。こう見えても、わいIQ200の運動神経もバツグンなんやで! きっと力になりますわぁ」 軽くシャドーボクシングをかますミニマスの動きにあまり躍動感は感じられない。 「いや〜しっかしさっきは息ピッタリやったなぁ! なんや二人は付きおうとるんか? え?」 「な! そんなんじゃないわよ!」 顔を赤らめて反抗しているアスカを一瞥し、ミニマスがこっちにきて小声で聞いてきた。 「え? ニイちゃんはどうよ? 杖取りいったんは、あの子に危険な目ぇ合わせへんためやろ?」 「お前、どっから見てたんだよ」 ミニマスは心の中まで見透かしたかのような自信のある様子だ。 「あの子のこと好きなんか?」 思わず顔が熱くなる。 「好きじゃないわ!」 余計なことを聞いてくる親戚のおじさんみたいにしつこい。 「え? じゃあ嫌いなんか?」 「嫌いじゃ、ないけど」 「ほなら、好きなんや!」 ガキみたいにうざい。 「違うよ! 嫌いだよ嫌い!」 ポカンとするミニマス。 「アスカなんて強情だし、女の子っぽくないし、僕より力強いしーー」 言いたくもない悪口が口をついて出る。 「え……?」 ふと目をあげると、ダイスを渡そうとしていたアスカと目があった。声がでかすぎた。 「そう……」 ダイスをその場に落として、アスカはマスの外へ駆けて行った。 「待って!」 『アスカ様、場外です』 案内音が聞こえると同時にアスカは黒いモヤに包まれて消えた。 「あー、いってもうたな」 ミニマスを睨む。 「あ、今のは言ってと行ってを掛けたのであって、逝ってをかけたわけじゃーー」 何やら身振り手振りをしながら訳のわからない弁明をしている。 「アスカはどこへ行ったの?」 『アスカ様は場外へ出てしまったので、こちらで捕獲いたしました。復活させるためには、全コイン支払う必要があります』 なんだ、まだ助かるんだ。 「あーいらんいらん。コインがもったいないわ」 ミニマスが断った。何を言ってるんだこいつは? 『承知しました。では引き続き、ゲームをお楽しみください』 「ちょっと待ってよ! 助けるよ! コインあげるから!」 もう案内の声はしない。 「なんや、さっきは嫌いやゆうとったやんけ。もう選択は変更できひんぞ」 あっけらかんとしているミニマスに掴みかかった。 「何してくれてんだよ! 嫌いなんかじゃないよ!」 涙がこぼれそうになる。アスカは、兵隊にされちゃうのだろうか。 「なんやねん、最初からそう言ったらええやん。アスカのこと、わいよりも好きか?」 ミニマスを掴む手に力がこもる。 「……当たり前じゃないか」 画面の奥の顔が笑ったような息を吐いた。 「そか、なら良かった。助けにいったれ」 「できるの?」 手の力が抜けてくる。 「それは、ユウト次第やな」 ミニマスが一瞬光り、消えた。その向こうにさっきまではなかった道ができている。荊棘の茂る細い道だ。 僕は一歩踏み出した。
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