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最終回
ついに最終回まできた。バント作戦もあってギリギリいい勝負にはなっているけど、5対4で負けている。会場のボルテージはマックスまで盛り上がっていた。ここでホームランを出せば終わる。一方、コツコツバントで出せばそのうち勝てるかもしれない。しかし、2アウト。その上、次のバッターは三振しかとってない。
「ヒロくん。君はわかっているはずだよ」
マウント上からヒロに声をかけてくる仮面男。そう、わかっている。ここで勝つにはバントじゃダメだ。ホームランを打たなきゃ。でも、バントの姿勢を崩せない。そんな大役、僕にはできない。
「ふん、よしわかった。サービスだ」
仮面男は、ボールを地面におき、ちょこまかと足を小刻みに動かしながら回り始めた。
「え、何馬鹿にしてるの?」
クルクルと一周終えて、ヒロに向かい合った時、両手を前に突き出し「ハッ!」と一声出した。満足そうにボールを拾う。
「さあ、次振れば絶対にホームランが飛ぶ魔法をかけた。どうする?」
絶対嘘だ。何にも変わってない。
「そんなはったり、効かないぞ!」
仮面男はガックリと肩を落とした。
「そう思うならバントしたらいい。でも次のバッターには絶対に打たせはしない」
わかってる。実績から見ても仮面男の言うことは正しい。
ネクストバッターサークルをチラ見する。小柄な7番がブンブンとバットを振っている。
「ヒロ! お前なら行ける!」
6番がベンチから大きな声を出している。バットをギュッと握った。口車に乗せられたわけじゃない。それでも、やっぱりここは僕が打たなきゃ。バットを持ち変える。仮面男が笑った気がした。
「さあいくぞ!」
仮面男が振り被り、まっすぐに勢いのある球を投げてきた。打たせる気なんてないじゃないか! もう後には引けない。思い切り球目掛けてバットを振り抜いた。
キン!
わっと歓声が上がり、僕の打った球はグングンと飛んでいった。センターの頭を楽々超えて、観客席へ飛んで行った。ホームランだ。
僕は1塁から3塁ベースまで走った。ホームベースには仲間たちがわらわらとやってきている。仲間のもとへ帰り、ホームベースをしっかりと踏みしめた。6番が強く抱きしめ、そのまま僕を胴上げした。人生初めての胴上げ、周りからこんなに注目を浴びたのは初めてだ。みんな僕を見ている。
仮面男が近づいてきて、僕は地面に下ろされた。
「おめでとう。君の勝ちだ。やればできるじゃないか。もっと自信持った方がいいぞ」
肩をポンと叩いた。
「でも、魔法のおかげなんでしょ?」
「それはどうかな?」
「え、かけてないの?」
軽く笑ってはぐらかすと、ポケットからポケットよりも大きい板状のものを取り出した。包装紙には丸くて黄色い花がプリントされている。
「これはご褒美、板チョコだよ」
「わぁチョコ!」
受け取ろうとすると、ヒョイとかわされた。
「このチョコには魔法がかかっている」
「どんな?」
「それは、内緒さ」
ケチ。それじゃ危なくて食べられないじゃん。いや、食べるけど。
「それと、これもあげよう」
キラキラと輝く剣を差し出してきた。
「は〜キラキラしてる」
仮面男は剣をぐさっとグラウンドに突き立てた。
「でも、もしもっとチョコが欲しかったらーー」
「欲しかったら?」
ゴクリと唾を飲み込んだ。
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