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「やば! あんなとこ、穴あったっけ?」
「分かんないけど、早く取りに行かないと」
穴の近くまで行くと、躊躇する僕をよそにアスカがさっと潜っていく。アスカの上半身がフェンスを越えた時、揺れるスカートについ目がいってしまった。今すぐアスカの後ろに続けばもしかしたら……。いやダメだ。こんなことを考えていること、ヒロに気づかれただろうか。ヒロはただぼうっと突っ立って、フェンスの向こうに茂る木々を見ていた。
「ほら早く、私一人に取りに行かせるつもり?」
「あ、ごめん今いくよ」
僕らもそそくさとフェンスを潜って中に入った。
フェンスの中は木々が茂っていて、地面の土は固く、公園のとはなんとなく違う感じがした。ヒロが一本の木に駆け寄って何かをジッと見つめている。
「セミだ」
「え? 今三月だよ」
「でも、ほら」
ヒロの指差す先にはたしかにセミが木を登っている。
「ねぇ、ボール探す気あるの?」
ガサゴソと草木を分けて、先をいったアスカが戻ってきた。
「探すよ」
アスカから目をそらした先に、獣道のような、なんとなく道らしきものが見えた。
「あれ、なんだろう」
アスカもヒロもじっとその先を見つめた。多くの木々が濃く暗い影を落とし、先が見通せない。
「もしかしたら、あっちに転がったのかもね。行ってみよ」
アスカが先陣切って進んでいった。僕とヒロが付いていく。ずっと先は見えないけれど、目の前だけは何となく見える明るさがあった。長く暗い道を、僕ら三人は黙ったまま歩き続けた。
明るい広場が現れた。周りは木々で覆われている行き止まり。綺麗な円を描いたその広場は、僕の三歩分くらいの広さしかない。その広場の真ん中には四角い何かが落ちている。ボールもそこに転がっていた。ヒロがボールを拾った。
「なんで、こんなところまで転がってきたんだろう」
「早く戻ろう」
ヒロを促し、元来た道を帰ろうとした時、アスカは広場に落ちていた四角い何かに触れていた。
「アスカ、勝手に触らない方がいいよ」
不思議そうにアスカが僕を見た。
「なんでこんなところに、ボードゲームが落ちてるの?」
ボードゲーム? アスカの見つめるボードゲームに近づいて覗き込んだ。たしかに、ボードゲームだ……。ビュウっと嫌な風が吹いて、木々がザワザワと音をたてた。
「コマはないけど、ダイスはあるね」
僕がボードの中央の窪みにあったダイスを拾った時、ボードゲームがカタカタと音をたて始めた。
「え、なに?」
アスカの怯えた声が聞こえる。風がまた強く吹いた。ボードゲームがガタガタと音をたてて光り、辺りを照らし、思わず目を閉じた。風に乗って甘い匂いがした。どんどん風が強くなる。強いめまいを感じて、足がよろける。ヒロが腕を強く握りしめる。
「痛いよ、ヒロ」
光が消え、風が止まった。あまっとろい匂いが全身を包む。目を開けると、ヒロはいなかった。
「ユウト、ここどこ?」
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